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隷吏たちのるつぼ
第5章  第四章 口開く陥穽
 太一は三人で飲むつもりでいて、先に悠香梨を誘い、もちろん連絡は取れないから、二人になったのだと思っていた。だが訊いてみると、少し照れくさそうに、始めから二人きりの飲みに誘うつもりだった、と言った。

「宮守ってさあ、絶対、本山ちゃんに気があるよ。見た目も悪くないしさ、技術職採用だから道は先まで開けてるし、長男っつーのだけがネックだけど、結構良くない? もし、本山ちゃんもアリだったら、絶対うまくいくよ。応援する」

 智咲が嘘の相談を仕掛けた時、悠香梨はそんなことを言っていた。彼氏がいれば、仕事の不安やストレスなんかも結構癒されるものなのだ、と。自分は長くつきあい、結婚を約束した彼氏がいるから、ほらね、こんなに充実している──もちろんそこまで悠香梨が言うはずはないが、無意識にでも、自分を侮っていたのではないかと思い巡らせた時、

「なんか、飲みてーやつ無くなっちゃったなあ」

 太一がメニューを見て呟いた。

 この男は今日、自分が誘いに応じたことで、いくばくの期待を持っているに違いない……。

「お店、出る?」
「あ、もうそろそろ帰るか? 日曜だしな」
「ううん。別のとこで、もう少し話したいかなって」
「どっか行きたい店あんの?」
「私の部屋で飲も?」

 絶句した太一をタクシーで部屋に連れてきたのだった。

 グラスを洗い、布巾で拭っていると、背後に気配を感じた。前を向いたまま、

「座っててって言ったのに」

 智咲はグラスを置き、後ろから肩を引き寄せてきた逞しい胸板へと凭れた。

「本山……、あのさ」

 太一が一大決心をつける前に、腕の中で回れ右をし、彼を見上げて背伸びをした。
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