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隷吏たちのるつぼ
第5章  第四章 口開く陥穽



 来客用に備えていたスリッパを初めて使った。

「ごめん……、ちっちゃいね」

 智咲が作為的な微笑を浮かべると、踵をはみ出させて履いた太一も、よそよそしい笑みを浮かべた。

「適当に座って」
「どこに?」
「どこでも」

 立ち尽くしている太一を促しつつ、ふと部屋を見ると、壁際に置いてあるシングルベッドはブランケットが小さく畳まれて隅に寄せられていた。シーツだけのスペースが大きく取られている。

(家出る時から、そのつもりだったのかって思われてるかな)

 太一もベッドを一瞥したから、そう考えた。いかにも、いつでもすぐに何やら始めることができそうなベッドだ。

 しかし智咲は、べつにそう思われてもいいや、と何も言わなかった。

「グラス要るよね。……ほんと、適当に座ってね」

 太一をその場に残してキッチンへと向かい、棚から出したグラスをすすぎ始めた。

 今日は日曜日だというのに、どこにも出かけずに部屋にいた。

 昨日の昼過ぎ、征四郎が何の連絡もなくやってきた。ビールとつまみを用意させ、まるで自分の家かのようにくつろぐ。智咲はテーブルの斜向かいに座り、征四郎が得意げに語る冒険譚を無表情で聞いていた。

(私の……、せいだ)

 N市にも県内にも知り合いは一人もいない。
 オリエンテーションの時、人懐っこいほうではなく、かつ、群を抜いた愛らしさのせいで却って人を遠ざけがちになっていた智咲へ、同じ班になった悠香梨は積極的に話しかけてくれた。年上で姉御肌、悠香梨の周囲には自然と他の同期が集まり、彼女を通じて彼らとも話せるようになった。

 少し前も、元気のない自分を心配して二人飲みに誘ってくれた。「会館の受付勤務なんてしている間に同期との差がついていくのが不安だ」と相談をすると、お互いのこれからの将来について真剣に語り合ってくれた。
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