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第26章 運命は・・・先着順？

ｶﾞﾀﾀ・・・っ



腰を抜かすように
俺の母親が動揺した




『っ・・・ぁ、の…それは・・・』





異議を唱えられる空気でもなければ

言えた立場ではない・・・と言う

暗黙の雰囲気


俺の母は…言いかけた口をつぐんで

席に座り直した




その音に紛れて

マリアの肩が震えたのが

隠れて見えた…






『ただの紙切れではありません

それだけの…効力と責任
約束をするものだと認識して

誠心誠意…誓って署名して頂きたい
二人とも、子どもではないのですから

今日…この場を以て
〃関係〃もきっちりと清算して頂く…』







見事だ・・・


混乱に乗じるかのように

一番重要なことを

意図も簡単に…当たり前に、あっさりと

決めてしまって反論させない









ｶﾀﾝ・・・


ヤツはようやく席に座って

なだめるような顔付きで

隣のマリアを覗きこんだ



『まりあ・・・』






ゾワ・・・





裏の顔を知る俺は

俺には・・・この世の何者よりも

恐ろしい仮面に見えた






『まりあ・・・さぁ、サインするんだ』




『・・・』








ヤツはやたら穏やかな口調で

それでいて、うつむいているマリアに
さりげに無理矢理ペンを握らせた




『まりあ・・・？
話はもう済んだ…もうこれで良いんだから

早くこれを書いて
一緒に家に帰ろう・・・』









マリアが…抗う気力をなくしていった

いつか聞いた、そんな日々の

そんな気持ちが…初めて

肌で感じるように、わかる気がした




こんな風に追い詰められたら

そこにどんな真実があったとしても

声を上げて叫ぼうなどと…力は湧いてこない

助けを求めても…誰も自分の声など

聞いても信じてももらえない

これは、そんな包囲網だ・・・





『～まりあ・・・、・・・ﾌｩ』



動こうとしないマリアに

(本当は血管ブチギレそうなんだろうが)

小さくため息をついて

ヤツがポケットから何かを取り出した






あれ・・・は・・・





『っ・・・！』


微かに抵抗したマリアの
ペンを握らせた手とは反対…左手を

ヤツが…そっと・・・ガッチリと
つかみ上げて

その薬指に…夫婦の証のソレを
しっかり奥まで嵌め込んだ