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終止符.
第14章 想い
奈緒は買物を終えてアパートの階段を足取りも軽くとんとんと駆け上がる。

誰かが待っている部屋に帰るのは初めての事で気持ちも弾んだ。

「ただいま。」

ドアを開けようとすると、足音に気がついたのか中から純が顔を出した。

「お帰りなさい。」

純はバスタオルを腰に巻いて嬉しそうに奈緒を出迎えた。

「パスタを茹でようと思ってお湯を沸かしたんです。」

「あはは、お鍋の場所分かったの?…すごーい。ありがとう。」

純の姿が恥ずかしくて見られない奈緒は、大袈裟に喜んで目を反らせた。

「ちょっと見渡したら僕に出来そうなのが目に付いたから……ほら。」

純はミートソースの缶詰を出して奈緒の目の前にちらつかせた。

「あはは、連休の為に買い込んでおいてよかったわ。」

「奈緒さんお風呂入って下さい。あがったらすぐに食べられますよ。」

「ホントにいいの?凄く贅沢な気分。楽しみだわ あ 、はい、これあなたの着替え。」

「えぇっ! 僕に?」

紙袋を差し出した。

「そう。スーツはクリーニングに出しちゃったの。これはプレゼント。気に入ってくれるかしら。」

「うわぁ、嬉しいな。 ありがとうございます。さっそく着替えます。」

「それじゃ、私はお風呂に入ってきます。」

「ごゆっくり。」



不思議な感覚だった。

純が家にいるのが不思議だった。

この先どれ位続くのだろうか。


奈緒はハッとした。


篠崎といる時にはいつも意識していた終わりの時を、今は感じなくてもいい。

ままごとのようなやり取りの、まだぎこちない二人だが、これから先の事に目を向けても誰にも非難されないし、後ろめたさもない。


気持ちが軽くなっていた。


ゆったりとバスタブに浸かりながら、奈緒は純の心の痛みも軽くしてあげたいと思った。


そばにいよう。


純が社会人になれば一緒に住むこともできる。


純が30代になれば、40代になれば……



奈緒は鏡に映る自分の顔をじっと見た。


これから歳を重ねてどんどん素敵になっていく純が、いつまで自分だけを見つめてくれるだろうか…。


夢物語から目覚める時がいつか訪れるかもしれない。


その時は…。


鏡に熱いシャワーを浴びせかけ、曇ってゆく自分の顔を見つめる。


その時は純の幸せを願おう。

奈緒はそう心に誓った。
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