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終止符.
第14章 想い
葉桜の頃を過ぎ、新緑が街の色を明るく彩っている。

そよ風が頬を撫で、気持ちよく髪がなびいても、奈緒の心は晴れなかった。

ゴールデンウィークだから何処かへ出掛けよう、と沙耶達に誘われても、実家に帰るからと嘘をついた。

自転車に乗り、一つ隣の駅まで足を延ばし、いつもと違うスーパーで、1人分には少し多めの食料を買い込み、本屋で雑誌を数冊と料理本を探して前カゴに詰め込んだ。


予報では明日から数日雨が続く。


今日も出掛ける気にはなれなかったが、外の空気に触れるといくらか気分も和らいだ。


純はどうしているだろうか。

篠崎からの連絡はない。

奈緒はあれから何度も純に電話を掛けようとしてはやめ、携帯画面とのにらめっこを繰り返していた。

想いは募った。

胸が軋(きし)む夜を過ごし、寝付けずに寝返りを繰り返す。

必要なのは純の温もりだけだった。

訪ねて来て欲しい、声を聞かせて欲しい…。


純が日本にいない時よりも、今が寂しかった。

電話をしたら飛んで来てくれるだろうか。

悲しみを1人で背負ってはいないだろうか。


奈緒は純を放棄してしまった自分が情けなかった。

罪悪感が胸を締め付ける。

あの時、追いかけなかった事を何度も後悔した。

純を傷付けた。

大好きな人を傷付けた。

好きだと言えばよかった。

あなたの人生を曇らせたくないと、ちゃんと言えばよかった。


奈緒はアパートに着くと自転車を止め、重い足取りで階段を上がった。


今日も眠れそうにないと思いながら、買ってきたものを冷蔵庫に詰め込み、気持ちよく乾いた洗濯物を取り込む。

少ない洗濯物をたたみながら、壁の絵葉書を見つめた。


明るく眩しいビーチよりも、瑠璃色の夕暮れの方が、純には似合っていると今はわかる。


奈緒は藤田が奈緒に当てたメッセージを取り出して呟いた。

「社長、ずっと愛していたと、純に信じさせてあげて下さい…」



─────────

次の日。

雨粒が窓に当たる音で奈緒は目覚めた。

昨日とは打って変わって、どしゃ降りの雨が降る。

買物に行っておいてよかったと胸を撫で下ろし、ぼんやりとテレビを眺める。

昼過ぎになってようやく、何も食べていない事に気付いた奈緒は、コーヒーを入れてパンを焼いた。

憂鬱な休日が、また始まった。



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