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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第5章 緑に睡る

軽井沢の別荘に着くと紳一郎はお茶を勧める家政婦を断り、荷解きをメイドに託すと屋敷を出た。
「少し馬に乗ってくる。…夕方までには帰るよ」
屋敷と少し離れたところにある厩舎に繋がれている一頭の馬に跨り、十市の山小屋に向かう。
軽井沢での十市の住まいは領地の外れの吊り橋を渡った先の小さな山の中にあった。
吊り橋は短いとはいえ、下はかなり深い谷で流れの激しい川が流れている。
小さな頃は吊り橋が怖くて、十市に背負われながら渡った。
少し大きくなってからは、馬に跨る十市の胸に抱かれ渡り、やがては一人でも渡れるようになった。
「坊ちゃん。馬に乗るときは馬を信じるんです。信じて任せれば馬はちゃんと行きたいところに連れて行ってくれます」
十市の教えはいつもとても分かりやすい。
紳一郎の乗馬はとても伸びやかでいいと学院で褒められるのは十市のおかげなのだ。
吊り橋を渡り、暫く林の道を真っ直ぐに進む。
…十市には実は明日着くと知らせてあった。
本当は今日は母方の祖母の家でお茶会に出なくてはならなかったのだが、苦手な祖母に逢いたくなくて風邪をひいたと嘘をつき、強引に信州方面の汽車に乗り込んだのだ。
ナニーはぶつぶつ文句を言いながらも当座の荷物をトランクに詰めてもたせてくれた。
執事は父 公彦と一緒に軽井沢にやって来るからまだ先だ。
…暫くは優しい家政婦とのんびりした地元の通いのメイドだけだ!
人目を気にせずに十市に逢える!
込み上げてくる嬉しさに、紳一郎は鐙を軽く蹴り、馬を早駆けさせた。
山小屋が小さく見えてきた。
紳一郎は満面の笑みになる。
…十市…もうすぐ十市に逢える…!
木洩れ陽がきらきらと輝き、眩しい。
紳一郎は息を弾ませながら、馬を走らせる。
…四カ月ぶりに十市に逢える!
紳一郎は身体中が擽ったくなるような幸福の中にいた…。
「少し馬に乗ってくる。…夕方までには帰るよ」
屋敷と少し離れたところにある厩舎に繋がれている一頭の馬に跨り、十市の山小屋に向かう。
軽井沢での十市の住まいは領地の外れの吊り橋を渡った先の小さな山の中にあった。
吊り橋は短いとはいえ、下はかなり深い谷で流れの激しい川が流れている。
小さな頃は吊り橋が怖くて、十市に背負われながら渡った。
少し大きくなってからは、馬に跨る十市の胸に抱かれ渡り、やがては一人でも渡れるようになった。
「坊ちゃん。馬に乗るときは馬を信じるんです。信じて任せれば馬はちゃんと行きたいところに連れて行ってくれます」
十市の教えはいつもとても分かりやすい。
紳一郎の乗馬はとても伸びやかでいいと学院で褒められるのは十市のおかげなのだ。
吊り橋を渡り、暫く林の道を真っ直ぐに進む。
…十市には実は明日着くと知らせてあった。
本当は今日は母方の祖母の家でお茶会に出なくてはならなかったのだが、苦手な祖母に逢いたくなくて風邪をひいたと嘘をつき、強引に信州方面の汽車に乗り込んだのだ。
ナニーはぶつぶつ文句を言いながらも当座の荷物をトランクに詰めてもたせてくれた。
執事は父 公彦と一緒に軽井沢にやって来るからまだ先だ。
…暫くは優しい家政婦とのんびりした地元の通いのメイドだけだ!
人目を気にせずに十市に逢える!
込み上げてくる嬉しさに、紳一郎は鐙を軽く蹴り、馬を早駆けさせた。
山小屋が小さく見えてきた。
紳一郎は満面の笑みになる。
…十市…もうすぐ十市に逢える…!
木洩れ陽がきらきらと輝き、眩しい。
紳一郎は息を弾ませながら、馬を走らせる。
…四カ月ぶりに十市に逢える!
紳一郎は身体中が擽ったくなるような幸福の中にいた…。

