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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第5章 緑に睡る

…紳一郎は14歳になった。
透明な硝子細工のように繊細でそれでいて張り詰めたような美貌は更に研ぎ澄まされ、見るものを押し黙らせる冷たい美しさに満ち溢れていた。
背丈はすらりと伸び、星南学院の同級生の中でも長身の方だ。
相変わらず学業優秀、スポーツにも秀で、馬術部の大会で新人賞を受賞するほどの腕前である。
クラス委員長も務め美貌もだが、年より大人びて落ち着いた性質に人望も集まり、級友らの人気も高い。
教師からの信頼も厚く、申し分のない生徒だ。
…友人や教師から好かれることなど赤子の手を捻るよりも簡単だと、紳一郎は思う。
友人には明るく親切に、時には皆と羽目を外し、教師には思慮深く謙虚で勤勉な態度をさり気なく披露すれば、彼らはすぐに紳一郎に一目置くようになるからだ。
紳一郎は学校では常に「信頼置ける級友であり、信頼置ける生徒」であるよう演技を続けてきた。
その演技を余りに長く続けてきたので、もはやそれが本来の自分であるような錯覚さえしてしまうほどだった。
…けれど常に柔和な笑みを浮かべ、親切で穏やかで感じの良い生徒を演じるのは暫しお休みだ。
そう思うと自然に笑みが零れてくる。
…明日からは夏休みだ。
明日…明日には十市に会える…!
その事実が紳一郎を幸福にする。
「随分とご機嫌だな、紳一郎」
隣の席の級友が紳一郎の腕をつっつく。
「明日から軽井沢の別荘に行くからね」
弾む気持ちそのままで、紳一郎は素直に答える。
級友は不思議そうな貌をした。
「軽井沢?…そんなに楽しいところかなあ。僕も家族と毎年訪れるけれど、最初の数日ですっかり飽きてしまうよ。東京のように刺激がないからね」
「僕はずっと住みたいくらいに軽井沢が好きだ」
…軽井沢には十市がいるから…。
にこりと魅惑的に笑う紳一郎に、級友はどきりとする。
「もしかして、軽井沢に好きな女の子でも来るのか?」
見当違いな質問をする級友を笑って受け流す。
「さあね。ご想像に任せるよ」
「…へえ…」
級友はこの美貌のクラス委員長が好きになる女の子を想像してみる。
…綺麗で可愛くて華奢なお人形みたいに可憐な女の子…。
きっと名門貴族の令嬢に違いない。
独り合点をいかせる級友を尻目に、紳一郎は一人の男に想いを馳せる。
…十市…。早く逢いたい…君に…。
透明な硝子細工のように繊細でそれでいて張り詰めたような美貌は更に研ぎ澄まされ、見るものを押し黙らせる冷たい美しさに満ち溢れていた。
背丈はすらりと伸び、星南学院の同級生の中でも長身の方だ。
相変わらず学業優秀、スポーツにも秀で、馬術部の大会で新人賞を受賞するほどの腕前である。
クラス委員長も務め美貌もだが、年より大人びて落ち着いた性質に人望も集まり、級友らの人気も高い。
教師からの信頼も厚く、申し分のない生徒だ。
…友人や教師から好かれることなど赤子の手を捻るよりも簡単だと、紳一郎は思う。
友人には明るく親切に、時には皆と羽目を外し、教師には思慮深く謙虚で勤勉な態度をさり気なく披露すれば、彼らはすぐに紳一郎に一目置くようになるからだ。
紳一郎は学校では常に「信頼置ける級友であり、信頼置ける生徒」であるよう演技を続けてきた。
その演技を余りに長く続けてきたので、もはやそれが本来の自分であるような錯覚さえしてしまうほどだった。
…けれど常に柔和な笑みを浮かべ、親切で穏やかで感じの良い生徒を演じるのは暫しお休みだ。
そう思うと自然に笑みが零れてくる。
…明日からは夏休みだ。
明日…明日には十市に会える…!
その事実が紳一郎を幸福にする。
「随分とご機嫌だな、紳一郎」
隣の席の級友が紳一郎の腕をつっつく。
「明日から軽井沢の別荘に行くからね」
弾む気持ちそのままで、紳一郎は素直に答える。
級友は不思議そうな貌をした。
「軽井沢?…そんなに楽しいところかなあ。僕も家族と毎年訪れるけれど、最初の数日ですっかり飽きてしまうよ。東京のように刺激がないからね」
「僕はずっと住みたいくらいに軽井沢が好きだ」
…軽井沢には十市がいるから…。
にこりと魅惑的に笑う紳一郎に、級友はどきりとする。
「もしかして、軽井沢に好きな女の子でも来るのか?」
見当違いな質問をする級友を笑って受け流す。
「さあね。ご想像に任せるよ」
「…へえ…」
級友はこの美貌のクラス委員長が好きになる女の子を想像してみる。
…綺麗で可愛くて華奢なお人形みたいに可憐な女の子…。
きっと名門貴族の令嬢に違いない。
独り合点をいかせる級友を尻目に、紳一郎は一人の男に想いを馳せる。
…十市…。早く逢いたい…君に…。

