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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第5章 緑に睡る
バーカウンターの奥には狭く急な階段があった。
前を行く十市が、一度振り返る。
「…足元に気をつけてください。暗くて急だから…」
「…うん…」
紳一郎は小さく頷く。

…十市の後ろ姿を紳一郎は穴が空くほどに見つめる。
一つに束ねた長く艶やかな巻き毛…広い背中…逞しい腰…長い脚…。
安煙草の匂いは相変わらずだ。
…それから…南国の熟れた果物のような匂いも…。

紳一郎は胸が苦しくなる。
…時間が魔法のように、あっと言う間に巻き戻る。
…この階段を登りきると、そこは3年前の軽井沢なのではないだろうか…。
そんな幻想に取り憑かれる。

…あの日…。
忘れられないあの日…。
…あの…3年前のあの夏の日に…。
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