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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第5章 緑に睡る
…男は…十市は三年前と少しも変わらない姿で、紳一郎を食い入るように見つめていた。
黒く長く緩い巻き毛を後ろに一つに束ね、白いワイシャツに黒いネクタイ、黒いベストに黒いパンツを履いていた。
…そんな正装めいた服装は初めて見た…。
意外なほどよく似合っていることにも、驚きを隠せない…。

黒く濃い眉、濃い睫毛が縁取る彫りの深い眼は黒く…やはり神秘的な雰囲気を醸し出していた。
西洋人のような高く美しい鼻筋、やや大きく肉惑的な唇…上唇の上に口髭をたくわえているのが三年前との唯一の違いだ。
口髭のせいで十市は以前にも増して、異国の人のように見えた。
がっしりとした広い肩幅、分厚い胸、逞しい腰…。
上背のあるギリシア彫刻のような精悍な体格は三年前のままだ。
「…久しぶりだな…十市…」

…こんな言葉しか出てこない自分が歯痒い。
もっと…もっと…言いたいことがあるのに…。

「…坊ちゃん…」
十市は相変わらずその言葉を繰り返しだけだ。
瞬きもせずに紳一郎を見つめる眼差しの奥にあるものが、何であるか…全く読み取れない。

二人が無言で向き合っていると、店の奥からスーツを着た中年男が現れた。
「どうした?十市。お客様か?」
人の良さそうなその男は紳一郎を見て無邪気に尋ねる。
十市が遠慮勝ちに説明をする。
「…支配人。こちらは俺が前に働いていた鷹司家の坊ちゃんです」
支配人と呼ばれた男は眼を丸くし、慌てて頭を下げた。
「鷹司公爵様の⁈これは…わざわざこんなところにお越しいただいて…」
紳一郎はその形の良い唇に儀礼的な笑みを浮かべる。
「突然伺いまして、申し訳ありません。…風の便りに彼がこちらで働いていると聞きまして、つい懐かしくて伺ってしまいました。…あの、よろしければ少し彼と話をしてもいいですか?」
すらすらと淀みなく説明する紳一郎に支配人はにこにこしながら頷き十市に勧める。
「もちろんです。…十市、鷹司様を君の部屋にご案内したらどうだ。今夜のオープンは遅い時間だし、ここはもういいよ。
…屋根裏部屋が彼の住居なんですよ。さあ、十市。鷹司様をご案内して」

十市は暫く黙っていたが意を決したように紳一郎を見つめると、低い声で告げた。
「…坊ちゃん。どうぞこちらへ…」




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