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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第5章 緑に睡る
ドアに取り付けられたカウベルが軽やかな音を立てる。
…薄暗い店内…。
奥には小さなステージがあり、それを取り囲むように座席とテーブル席が設えている。

右手にはバーコーナーらしきものがあり、仄明るいランプが一つ点いていた。
…人の気配を感じ、紳一郎はそちらに脚を進めた。

カウンターの奥、俯いてグラスを磨いている男がいる。
…背の高い逞しい体格の男だ。

男は足音には気づき、ゆっくりと貌を上げながら口を開いた。
「…すみません。…まだ開店していないん…」
…男の手から、グラスが滑り落ちる。
グラスが床に落ち、砕け散る音が響き渡る。

「…坊ちゃん…!」
悲痛な叫び声のような声…。
…懐かしい声だ。
忘れようにも決して忘れられない声…。
忘れるはずがない声…。

「…十市…」
紳一郎の唇から小さい声が、絞り出すように漏れた。




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