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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第5章 緑に睡る

「…紳一郎様…。こちらで、本当によろしいのですか?」
店の前で車を停めた運転手が戸惑ったように振り返る。
…紳一郎が訪れるには、おおよそ似つかわしくない店の佇まいだったからだろう。
「いい。大丈夫だ」
紳一郎は運転手がドアを開けに来ようとしたのを制し、しなやかに車から降りる。
「…帰りはタクシーを拾う。もう帰っていい」
運転手に短く告げると、店の前に歩き出した。
運転手は何かを言っていたようだが、振り返らず進む。
…カフェ 浪漫…か…。
青銅で出来た小さな看板が入り口のポールにぶら下がっていた。
欧州の大衆向けのバーのような質素ながらもなかなか洒落た煉瓦造りの小さな店だ。
蔦の絡まる外壁が、軽井沢の別荘のあの小屋を彷彿させて、紳一郎の胸は不意に締め付けられる。
感傷を振り払うように頭を上げ、磨き上げられた革靴で石畳みを歩く。
胡桃の木でできた重そうなドア…。
硝子は磨り硝子で中の様子を伺い知ることは出来ない。
…本当に…彼はここにいるのだろうか…。
半信半疑に高鳴る胸を抑えるように、紳一郎は白い手で、ドアを押し開いた。
店の前で車を停めた運転手が戸惑ったように振り返る。
…紳一郎が訪れるには、おおよそ似つかわしくない店の佇まいだったからだろう。
「いい。大丈夫だ」
紳一郎は運転手がドアを開けに来ようとしたのを制し、しなやかに車から降りる。
「…帰りはタクシーを拾う。もう帰っていい」
運転手に短く告げると、店の前に歩き出した。
運転手は何かを言っていたようだが、振り返らず進む。
…カフェ 浪漫…か…。
青銅で出来た小さな看板が入り口のポールにぶら下がっていた。
欧州の大衆向けのバーのような質素ながらもなかなか洒落た煉瓦造りの小さな店だ。
蔦の絡まる外壁が、軽井沢の別荘のあの小屋を彷彿させて、紳一郎の胸は不意に締め付けられる。
感傷を振り払うように頭を上げ、磨き上げられた革靴で石畳みを歩く。
胡桃の木でできた重そうなドア…。
硝子は磨り硝子で中の様子を伺い知ることは出来ない。
…本当に…彼はここにいるのだろうか…。
半信半疑に高鳴る胸を抑えるように、紳一郎は白い手で、ドアを押し開いた。

