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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第5章 緑に睡る
紳一郎は眼を瞬かせる。
「う、うん。…そうだよ」
十市はふっと息を吐く。
そして、じっと紳一郎の貌を覗き込み、ゆっくりと首を振った。
「嘘ですね。坊ちゃんは嘘を吐くとすぐ分かります。
…坊ちゃんがいくらお金持ちでも、2つも買うほどお小遣いはないはずだ」
紳一郎は押し黙る。
「…これ、どうしたんですか?」
しぶしぶと白状する。
「…父様からのクリスマスプレゼント…。十市に上げたくて、方位磁石にしてもらったんだ」
「…やっぱり…」
「だから、怪しいものじゃないよ?…ちゃんと父様に貰ったんだから。もう僕のものなんだから、十市に上げてもいいじゃないか」
十市はきっぱりと首を振る。
「…旦那様は、坊ちゃんが喜ぶと思って贈ったはずです。
それをすぐに俺が貰うわけにはいかない」
十市の瞳は断固とした強い意志を感じるものだった。
「…そんな…」
紳一郎はベソをかきそうになった。
…せっかく十市が喜ぶと思ったのに…!
「…だって…十市…方位磁石、なくて困っていたから…僕…十市が森で迷って…崖から落ちて死んじゃったら嫌だから…方位磁石にしたのに…貰ってくれないの…?」
…言っている内に涙が出てきて、紳一郎はわんわんと幼児のように泣き出した。
十市は困ったように優しく笑うと、くしゃくしゃの手巾で紳一郎の涙を拭き、洟をかんでくれた。
「嬉しいです。ありがとう、坊ちゃん…」
紳一郎はしゃくり上げながら上目遣いに十市を見る。
「…でも…貰ってくれないんだろう?」
…せっかく、十市の喜ぶ貌が見られると思ったのに…。
十市を困らせてしまった自分にも腹が立つ。

十市は少し考え込んでいたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「…貰うわけにはいきません。…でも、坊ちゃんから借りることはできます」
「…え?」
紳一郎はまだ涙が乾かない瞳を見開く。
十市は実直な眼差しで優しく笑った。
「…俺にこの方位磁石を貸してもらえますか?大切にします」
紳一郎の胸が嬉しさで一杯になる。
「うん!貸す貸す!一生、十市に貸す!」
はしゃぐように叫ぶと、紳一郎は十市に抱きついた。
十市が紳一郎を抱き返す。
…紳一郎の髪にそっと十市の唇が触れたような気がしたのは…紳一郎の気のせいかも知れない…。
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