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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第5章 緑に睡る

「はい。十市…」
銀座の高級舶来洋品店の包み紙と綺麗な金色リボンで彩られた箱を渡す。
十市は繊細なリボンや包み紙をこわごわと開き、眼を大きく見開いた。
紳一郎が十市に贈ったのはカーフの革の黒い乗馬用手袋だ。
十市が以前に着けていた乗馬用手袋がぼろぼろで、手に手綱の擦り傷が付いていたのを紳一郎は気付いていた。
十市の使っていた手袋は豚皮の安いものだったので、消耗しやすいのだ。
「…こんな高級なもの…もらえないです」
恐れ多いような表情をし、十市は呟く。
カーフの手袋は星南の馬術部で流行っていた。
柔らかく手に馴染みやすく、そしてお洒落だと上級生らは競って何色も揃えていた。
…十市の方が絶対似合うのに…。
紳一郎は彼らの手袋を見るたびにそう思った。
十市が軽井沢から戻ってきた週、紳一郎は学校帰りに銀座の高級舶来洋品店に寄った。
鷹司家はお得意様だ。
すぐに支配人が飛んできた。
ご機嫌を取る支配人を尻目に、紳一郎はカーフの革手袋を迷わず購入した。
十市の手のサイズは空で言えた。
かなりの出費になったが一年間、学院の購買でスイスのチョコレートを買うのを我慢してお小遣いを節約していたからなんとか捻出できた。
「内緒のプレゼントなんだ。…だから父様には秘密にしてね」
にっこりと笑うと、支配人は揉み手をしながら
「坊っちゃまはお優しいですね。鷹司様はどんなにお喜びになられるでしょうか」
と褒めそやした。
紳一郎は黙って笑い返した。
…別に嘘はひとつも付いてない。
従業員が総出で見送る中、紳一郎は足取りも軽く店を出た。
「もらってくれなきゃ怒るよ。…大丈夫。僕のお小遣いで買ったんだから」
十市は暫く紳一郎を見つめていたが、手袋を大切そうに押し戴くと、頭を下げた。
「…ありがとうございます。 坊ちゃん」
紳一郎の胸の中がぽかぽかと暖かくなる。
もっともっと十市を喜ばせたい。
紳一郎は十市の耳元で囁いた。
「…まだあるんだ。…ほら!」
十市の目の前に金鎖が下がった舶来の方位磁石を突き出す。
「…これは…!」
十市の眼が更に丸くなる。
「方位磁石、壊れてて、困っていたでしょ?」
父親の森番から貰ったお下がりの方位磁石が今年の始めに壊れてしまい、十市は勘だけで森や猟場を歩いていたのだ。
十市は紳一郎をじっと見つめる。
「…これも坊ちゃんのお小遣いで買ったんですか?」
銀座の高級舶来洋品店の包み紙と綺麗な金色リボンで彩られた箱を渡す。
十市は繊細なリボンや包み紙をこわごわと開き、眼を大きく見開いた。
紳一郎が十市に贈ったのはカーフの革の黒い乗馬用手袋だ。
十市が以前に着けていた乗馬用手袋がぼろぼろで、手に手綱の擦り傷が付いていたのを紳一郎は気付いていた。
十市の使っていた手袋は豚皮の安いものだったので、消耗しやすいのだ。
「…こんな高級なもの…もらえないです」
恐れ多いような表情をし、十市は呟く。
カーフの手袋は星南の馬術部で流行っていた。
柔らかく手に馴染みやすく、そしてお洒落だと上級生らは競って何色も揃えていた。
…十市の方が絶対似合うのに…。
紳一郎は彼らの手袋を見るたびにそう思った。
十市が軽井沢から戻ってきた週、紳一郎は学校帰りに銀座の高級舶来洋品店に寄った。
鷹司家はお得意様だ。
すぐに支配人が飛んできた。
ご機嫌を取る支配人を尻目に、紳一郎はカーフの革手袋を迷わず購入した。
十市の手のサイズは空で言えた。
かなりの出費になったが一年間、学院の購買でスイスのチョコレートを買うのを我慢してお小遣いを節約していたからなんとか捻出できた。
「内緒のプレゼントなんだ。…だから父様には秘密にしてね」
にっこりと笑うと、支配人は揉み手をしながら
「坊っちゃまはお優しいですね。鷹司様はどんなにお喜びになられるでしょうか」
と褒めそやした。
紳一郎は黙って笑い返した。
…別に嘘はひとつも付いてない。
従業員が総出で見送る中、紳一郎は足取りも軽く店を出た。
「もらってくれなきゃ怒るよ。…大丈夫。僕のお小遣いで買ったんだから」
十市は暫く紳一郎を見つめていたが、手袋を大切そうに押し戴くと、頭を下げた。
「…ありがとうございます。 坊ちゃん」
紳一郎の胸の中がぽかぽかと暖かくなる。
もっともっと十市を喜ばせたい。
紳一郎は十市の耳元で囁いた。
「…まだあるんだ。…ほら!」
十市の目の前に金鎖が下がった舶来の方位磁石を突き出す。
「…これは…!」
十市の眼が更に丸くなる。
「方位磁石、壊れてて、困っていたでしょ?」
父親の森番から貰ったお下がりの方位磁石が今年の始めに壊れてしまい、十市は勘だけで森や猟場を歩いていたのだ。
十市は紳一郎をじっと見つめる。
「…これも坊ちゃんのお小遣いで買ったんですか?」

