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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第5章 緑に睡る

切り出し、剪定された樅木は屋敷の玄関ホールに設置する。
そこでも十市は見事な腕さばきで樅木を要領良く設置し、無駄な枝を払ったりする。
クリスマスツリーの設置と飾り付けは他の使用人達も朝から浮き足立つ心弾むイベントだ。
普段、主人も女主人も不在がちで、まだ子どもの紳一郎しかいないこの屋敷では、使用人達も地味な毎日を過ごしているからだ。
メイド達や下僕達が総出で玄関ホールに集まり、賑やかにお喋りをしながら見事なツリーを見上げる。
中でも年若なメイド達の注目を集めるのは十市だ。
都会育ちの線の細い下僕達の中で、十市のしなやかな黒豹のような逞しい肉体美は眼を奪うのに十分なものだったからだ。
いつもは屋敷に寄り付かない十市が久々に現れたことに若いメイド達はそわそわと浮き足立つ。
大柄な身体で精悍にツリーを設置し、枝ぶりを見る男らしい姿にメイド達はひそひそと耳打ちをする。
「…十市さんて、すごくいい身体をしているのね」
「まあ、嫌らしい!…でも貌もすごくハンサムよね。…まるで外国人みたい」
「あの鋭い目つき…たまらないわあ…」
男好きするメイドの一人が、媚びるような眼差しで十市に近づき肩に着いた樅木の小枝を払ってやる。
「十市さん、着いていたわ」
十市はメイドを見下ろし、無愛想ながらも礼を述べる。
「…ありがとう」
メイドはそっと耳打ちをする。
「…ねえ、今度のお休みに銀座のバーに飲みにいかない?私、前から十市さんとゆっくりお話ししたかったのよ」
紳一郎は堪らずに叫ぶ。
「十市!来て。ツリーのオーナメントの紐が絡まって取れないんだ」
十市はメイドに目礼すると、すぐにその場を離れた。
厳しい家政婦長が十市に色目を使ったメイドに近寄り、散るようにジェスチャーする。
紳一郎が潔癖なのを熟知しているからだ。
「これですか?…ああ、紐を変えた方がいいな」
器用に新しい紐と交換する十市をじっと見つめ、ぶっきらぼうな声で尋ねる。
「…行くの?」
「え?」
不思議そうな貌をして十市が紳一郎を見る。
「…あのメイドと夜、出かけるの?」
…ああ…と表情を崩し、首を振る。
「行きません」
「本当に?」
「はい」
…そして…
「…俺は…坊ちゃんと過ごした方がずっと楽しいから…」
照れたように呟いた。
紳一郎は胸が一杯になり、返事の代わりに十市の節くれ立った大きな手をぎゅっと握りしめた。
そこでも十市は見事な腕さばきで樅木を要領良く設置し、無駄な枝を払ったりする。
クリスマスツリーの設置と飾り付けは他の使用人達も朝から浮き足立つ心弾むイベントだ。
普段、主人も女主人も不在がちで、まだ子どもの紳一郎しかいないこの屋敷では、使用人達も地味な毎日を過ごしているからだ。
メイド達や下僕達が総出で玄関ホールに集まり、賑やかにお喋りをしながら見事なツリーを見上げる。
中でも年若なメイド達の注目を集めるのは十市だ。
都会育ちの線の細い下僕達の中で、十市のしなやかな黒豹のような逞しい肉体美は眼を奪うのに十分なものだったからだ。
いつもは屋敷に寄り付かない十市が久々に現れたことに若いメイド達はそわそわと浮き足立つ。
大柄な身体で精悍にツリーを設置し、枝ぶりを見る男らしい姿にメイド達はひそひそと耳打ちをする。
「…十市さんて、すごくいい身体をしているのね」
「まあ、嫌らしい!…でも貌もすごくハンサムよね。…まるで外国人みたい」
「あの鋭い目つき…たまらないわあ…」
男好きするメイドの一人が、媚びるような眼差しで十市に近づき肩に着いた樅木の小枝を払ってやる。
「十市さん、着いていたわ」
十市はメイドを見下ろし、無愛想ながらも礼を述べる。
「…ありがとう」
メイドはそっと耳打ちをする。
「…ねえ、今度のお休みに銀座のバーに飲みにいかない?私、前から十市さんとゆっくりお話ししたかったのよ」
紳一郎は堪らずに叫ぶ。
「十市!来て。ツリーのオーナメントの紐が絡まって取れないんだ」
十市はメイドに目礼すると、すぐにその場を離れた。
厳しい家政婦長が十市に色目を使ったメイドに近寄り、散るようにジェスチャーする。
紳一郎が潔癖なのを熟知しているからだ。
「これですか?…ああ、紐を変えた方がいいな」
器用に新しい紐と交換する十市をじっと見つめ、ぶっきらぼうな声で尋ねる。
「…行くの?」
「え?」
不思議そうな貌をして十市が紳一郎を見る。
「…あのメイドと夜、出かけるの?」
…ああ…と表情を崩し、首を振る。
「行きません」
「本当に?」
「はい」
…そして…
「…俺は…坊ちゃんと過ごした方がずっと楽しいから…」
照れたように呟いた。
紳一郎は胸が一杯になり、返事の代わりに十市の節くれ立った大きな手をぎゅっと握りしめた。

