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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第5章 緑に睡る
12月は紳一郎が一年で一番好きな月だ。
なぜならクリスマスを十市と一緒に過ごせるからだ。

12月になり十市が軽井沢から戻ると、鷹司家はクリスマスツリーの準備をする。
領地内にある一番枝ぶりの良い樅木を選び、切り出し、ツリーに相応しく剪定し、玄関ホールのマントルピースの隣に設置するのは十市の仕事だ。

その日はクリスマスイブに次いで、紳一郎の楽しみな日だ。

朝早くから十市はまるで忍者のようにしなやかに樅木に登り、木を切り出す様を紳一郎は近くでずっと眺めるのが大好きなのだ。

執事は紳一郎が風邪を引かないように上等なカシミアのコートを着せ、マフラー、手袋と全てを用意してくれる。
ナニーは、そんなところで見学していて万が一怪我でもしたら…とやきもきするが、執事は紳一郎のしたいようにさせてくれる。

青空の下、林全体が揺れるようにして樅木が切り倒される様子は何度見ても圧巻だ。
普段、感情表現が乏しい紳一郎も頬を紅潮させ、瞳をきらきらさせて、十市と樅木が倒れる様子を見守る。
「すごい!今年の木も大きいね!」
無邪気にはしゃぐ紳一郎に、十市は革の分厚い手袋越しに頭を優しく撫で、眼を細めて笑う。
冬の日差しのもと、十市の瞳は濃いアメジスト色に煌めいていた。
…綺麗だな…。
紳一郎は十市を見上げながら、うっとりとする。

庭師と幾人かの腕っぷしの強い使用人と合わせて、樅木をツリーに相応しい形に剪定する。
ここでも十市が一番力強く機敏に働き、美しい形に樅木を切り揃えてゆくのを紳一郎は誇らしげに見つめるのだ。

昼になると、料理長安佐の心尽くしの昼食が運ばれてくる。
温かいクラムチャウダーやローストビーフ、オイルサーディンのオープンサンド、それに香り高いクリームティーだ。
紳一郎も木の切り株に座り、十市と並んでオープンサンドを頬張る。
紳一郎はいつも、十市と食べる食事はどうしてこんなに美味しいのだろうと思う。
口数が少ない十市は他の使用人のようにお喋りもせずに黙々とサンドイッチを口に運ぶ。
けれど時々、紳一郎の方を見ては唇の端についたパンの欠片を優しく取ってくれ、それを迷うことなく自分のやや分厚い唇に押し込める。
アメジスト色の瞳が紳一郎を愛しげに見つめる。
紳一郎はその瞳を見た途端、胸の奥が熱くなるのを感じ、サンドイッチをわざと豪快に頬張るのだった。









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