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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第5章 緑に睡る
十市は胡桃の木のテーブルにブリキのカップに入れた珈琲を置く。
そして、少し気遣わしげな様子で呟くように言った。
「…旦那様がそう仰るなら、坊ちゃんはあまりここに来ない方がいいかもしれない…」
紳一郎は目を見張った。
「何で⁈」
「…旦那様は坊ちゃんの父さんだから…。父さんの言うことは聞かなくちゃいけないです。…旦那様はきっと坊ちゃんのことを心配して仰ったに違いないです」
口数が少ない十市が珍しく紳一郎を諭すように話す。
「何で⁉︎何で心配なの⁉︎十市はすごく優秀な森番だし、優しいし…僕の親友だ。何でだめなのか、分からない!」
十市の濃く長い睫毛に縁取られた黒く澄んだ神秘的な瞳がやや哀しげな色に曇る。
「…俺が森番だからです。…俺は学もない使用人で、坊ちゃんは偉い貴族の跡取りだ。本当だったら、俺なんかが親しげに話せるような人じゃない。…住む世界が違うんです…」
「そんな…そんなことない!十市は僕の大切な友達だ!十市と会えないなら、僕はもう学校も行かない!」
紳一郎は立ち上がると、十市の分厚い胸に飛び込む。
黒いシャツには安い煙草と珈琲の匂い…。
どんな高級な舶来煙草より紳一郎には良い香りに思える。
温かい十市の温もりと、心臓の鼓動が、押し付けている頬と耳に伝わる。
「…坊ちゃん…」
どこか苦しげな十市の声…。
「…ねえ、だからそんなこと言わないでよ。…父様にはばれないように会いに来るから…。これからも変わらずに友達でいてよ…」
目を閉じて十市にしがみつく。
十市は暫く押し黙っていたが、やがてその大きく分厚い手のひらで、いつものように優しく紳一郎の髪を撫でる。
「…ずっと…ずっと…友達でいて…」
その手のひらに甘えるように繰り返す。
「…坊ちゃん…」
掠れた声が頭上から聞こえ、その逞しい腕が紳一郎を強く抱きしめる。
心臓がどきどきと音を立てる。
…こんなに強く抱きしめられたのは初めてだったからだ。

…十市に気づかれませんように…。
紳一郎は瞼を閉じたまま祈る。
…紳一郎が驚いていると分かったら、抱きしめている腕を解かれるような気がしたのだ。
だから紳一郎は無邪気な子どものふりをする。
「…大好きだよ、十市。お前は僕の親友だ」

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