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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第5章 緑に睡る
「…紳一郎?…どうかしたかね?余り食事が進んでいないようだが…」
公彦の心配そうな声で我に帰る。
「…いいえ、父様。なんでもありません」
首を振り、笑顔を作って見せると公彦はほっとしたように眼を細めた。
「良かった。…紳一郎とはなかなか食事もできなくて、申し訳なく思っているよ。お前は年より大人びているから私もつい安心してしまってね…」
律儀に詫びる父はもちろん、紳一郎が我が子ではないことを知っている。
…いや、蘭子とそもそも一度でも夫婦関係があったかどうかも怪しいと、口さがない噂雀は囀っていた。
蘭子は鷹司家の血さえ存続すれば父親は誰でも良かったのだ。
公彦の実家の名門公家の称号が欲しかっただけだろう。
多情な妻に文句を言うことなく、浮気相手の子供を実子として養育することに従順に従う名門公家出身の男…。
そのためだけに公彦は蘭子に選ばれたのだ。

…お気の毒な父様…。
僕の方がお詫びを申し上げたいくらいだ。
紳一郎は上品にドイツワインを口に運ぶ公彦に心で語りかける。

デザートのチーズが出たのをしおに、公彦がややぎこちなく切り出した。
「…十市が数日前に軽井沢から戻っているようだね」
紳一郎は形の良い眉を上げる。
…公彦が十市のことを口にするのは珍しいからだ。
「はい。父様」
「…お前は、随分と十市と仲が良いようだね」
「ええ。…昔から、よく遊んでくれますから…」
…それは父も知っていることのはずだ。
別段気に留めている様子もなかったが…。

「…そうか。そうだったね。だが、お前はもう12歳だ。中等科一年に上がったし、そろそろ使用人と子どものように遊ぶのはどうかな?…クラブ活動も忙しくなるだろうし、社交界にも私と一緒に本格的に参加しなくてはならない年齢だ。学業も本腰を入れなくてはならないし、十市とはもうあまり関わらない方が良いだろう」
紳一郎は真顔になり、手にしていたカトラリーを皿の上に置いた。
「なぜですか?父様、なぜそんなことを仰るのですか?」
公彦は穏やかな笑顔は崩さない。
物静かな語り口のまま続ける。
「…お前には相応しい友人がもっと沢山いるだろう。学院の友人と交流を深めなさい。…年上の友人が欲しいなら、父様が良い人を紹介しよう。…だから…」
紳一郎は気色ばんで立ち上がった。
「嫌です!絶対には嫌です‼︎」
銀のナイフが音を立てて床に落ちる。


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