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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第5章 緑に睡る
晩餐は大抵紳一郎一人だ。
広い食堂の縦長のテーブルで下僕に傅かれながら一人でカトラリーを動かす。
美味しいのかそうでないかもよく分からない。
ただひたすら胃袋を満たすだけの食事…。
…幼い頃からそうだったのでもう慣れてしまった。

…しかし、今夜は珍しく父が早くに帰宅し、一緒に晩餐を取ることになった。

父は昔どこかの家で見た古風な男雛のような貌をしている。
白皙の細面に眼鏡を掛け、息子との食事だと言うのにきちんと黒い燕尾服にホワイトタイを締めた父、公彦を紳一郎は決して嫌いではない。

週に一度か二度、まるで義務のように晩餐に間に合うように帰宅し、紳一郎に対して静かな口調で近況を尋ねる父は、さながら信頼のおける教師のようだからだ。

「学校は楽しいかい?」
マナーブックのお手本になりそうな所作で骨付きの仔羊のローストを切り分ける公彦は、優しく紳一郎に声をかける。
「はい。楽しいです」
「それは良かったね。…なんの授業が好き?」
「…最近ではフランス語の授業が楽しいです」
「ほう…。フランス語か。…私は余り得意ではなかったから…。紳一郎の方が上達するのは早いかも知れないな」
二人は小さく笑う。
…大して面白くはないが、笑わないと間が持たないからだ。

紳一郎は自分が公彦の息子ではないことに、早くから気づいていた。
…それは小さな頃から囁かれていたお茶会などでの大人達の悪意に満ちたゴシップからつなぎ合わせた結果の推察であるのだけれども…。

…「公彦様は本当にお気の毒よね…。ご自分のお子でもない紳一郎様を律儀に養育されて…」
「…最初から公彦様は全てを納得されて蘭子様とご結婚されたのですもの、仕方ないわ。…何しろ公彦様は子種がない上に、ご実家は破産寸前の貧乏公家。…蘭子様とのご婚姻が成立しなければ、公彦様の下の幼い弟妹は路頭に迷うほどだったのですよ。…蘭子様様なのではないかしら?」
「それにしても蘭子様のやりたい放題と来たら…!あの方が華族のお姫様だなんて…世も末だわ」
「ねえ、結局、紳一郎様はどなたのお子なの?」
「さあ…。大方、どこぞの遊び人の貴族の御曹司か富裕な財界人のご子息…てところでしょうよ。…蘭子様は殿方をアクセサリーのようにしか見ておられないのですから…。まあ、紳一郎様の美貌を見る限りかなりの美男には違いないわね」
…夫人らは一斉に笑った。





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