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月光の誘惑《番外編》
第3章 月に臨み、月を望む。

「悪魔は本当にいるから、気をつけろよ。俺が言えるのはそれだけだ」
「ん、忠告どうも」
「ま、勃起不全とこじらせた童貞が治るなら、女に入れあげてみるのも一つの手段かもな」
随分な荒療治を勧めるんだなと苦笑しながら、コーヒーを飲み干す。
そして、時間とPHSの着信の有無を確認し、定時で上がれたら何時に着くか予想する。
予約したホテルの名前と場所、時間などを書いてあかりにメッセージを送る。返事はすぐに来た。
『月野です。わかりました。もし、緊急事態があったら、気にせずお仕事をしてください。終電まで待って先生が現れなかったら、帰りますので』
くっそいい子じゃないか!? いやいや、ダメだ。こんな寒い日に終電で帰らせるなんて男としてダメだろ! 帰宅途中で何かあったらどうするんだ!
『もしそうなったら、俺の代わりに泊まって行ってください。もう精算は済ませてあるので』
『わかりました。では、そういたします。でも、一緒に過ごせると良いですね』
ヤバい、かわいい。めちゃくちゃかわいい。やっぱり天使だ。
「お前、やっぱ気持ち悪いな。早く帰れよ」
「医局に戻ったら雑用押し付けられるからなぁ。嫌なんだよな……って、ちくしょう」
ピーピー鳴り、震えるPHSの表示を見て、今この瞬間に、定時で上がることができなくなったことを悟る。
あぁ、ツイてない。
ツイてないけど、仕事だ。
「どうしました?」
『斎藤さんの容態が急変しました! 脈が四十で――』
水森に片手を挙げ、アイコンタクトで「また」と伝えたあと、すぐに病棟へ向かう。
斎藤さんのバイタルを聞き、看護師に指示を出しながら、俺の頭も体も「医者」に切り替わる。
今日中にただの「男」に戻れるかどうか、わからなくなってきた。
が、仕方ない。仕事なのだから。

