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月光の誘惑《番外編》
第3章 月に臨み、月を望む。

「十七年も探した天使が、また十七年後に現れてくれるとは限らないだろ。今日頑張らなくていつ頑張るんだよ」
「……そう、だな。いつ会うんだ?」
「今夜」
「は?」

 だって、仕方ないじゃないか。明日が休みなんだから。それ以降の休みは地方の学会で埋まっていて、来月まで休みがないんだから。

「明日は今月最後の休みなんだ」
「あぁ、だから、今夜ね……その女、大丈夫か?」
「何が?」
「医者から誘われたらすぐ承諾するような女だってことだろ? 騙されているんじゃないのか?」

『結婚も付き合うこともしません。ただし、セックスだけのお付き合いなら大歓迎です』と言う女。そこに金銭の授受が加わる可能性、美人局である可能性――俺もいろいろ考えた。
 けれど、どんなに考えても、彼女に会いたいのだ。彼女に触れたいのだ。

 そのためなら、貯めてきたお金を使うことに躊躇いはない。搾取されるなら、それでもいい。全財産捧げてもいい。
 あかりに笑ってもらえるなら。俺の名前を呼んでもらえるなら。

「いいんだ。騙されても。一夜だけの夢でも、地獄への入り口でも、俺はそれでいい」
「……地獄って、それ、天使じゃないだろ」
「俺にとっては天使だよ。中身が悪魔でも」

 水森は肩をすくめて「重症だな」と呟く。
 重症、だよ。勃起不全だって重症だ。俺の頭の中も重症。そんなの、わかっている。
 あの日、村上叡心の絵を見て心を奪われたときから、ずっと、病気なんだ。

「悪魔、か……まぁ、お前の財産がすっからかんになる前に止めてやるよ」
「ま、そうなってもいいよ。稼ぐだけだし」
「あんまり貢ぐなよ」
「貢ぐくらいで繋ぎ止められるなら、いくらでも貢ぐさ」

 水森は呆れたような顔で「キャバ嬢に入れあげる客かよ」と俺を見る。たぶん、キャバ嬢ではないと思うけど、キャバ嬢でも別に構わない。
 美人局でも詐欺師でも、何でもいいんだよ。本当に。

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