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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice

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「朝から……、神聖なピアノの上で、なんて!!」
我に返ったあたしが、顔に両手をあてて蹲り、さめざめと己の痴態を嘆く。
「ピアノを見れば、お前の喘ぎ声を思い出すな。お前、身体全体ですげぇ弾いていたもんな」
追い打ちをかける須王の声に、あたしの身体が恥辱に沸騰しそうだ。
「いーやー!!!」
……正気に戻れば、羞恥心と罪悪感がMAXを突ききった。
ぐすぐすと落ち込むあたしを笑い、彼は言う。
「俺が、朝食……もう昼食か、美味い飯を作るから、元気になれ」
優しく、甘い声。
自炊なんて無縁の男の台詞に突っ込むよりも、セックスをすればするほど、艶めかしい生き物になる彼の色香に惑わされないぞと、ぷいと横を向いた。
「餌に釣られないもん! もうやだ、早瀬さん嫌い!」
完全いじけモードのあたしは、須王が表情を崩したことに気づかない。
「おいこら。俺が嫌がるふたつのワードを使うんじゃねぇよ」
「知らない! 嫌い、嫌い! あっち行って!」
「黙らねぇと、口塞ぐぞ?」
「脅すなん……ぅんんっ、むぅっ」
官能的な深いキスを仕掛けてくる彼は、あたしが文句を言えずにくたりとなったところで、笑いながらあたしの頭をひと撫でして、耳に囁く。
「……嫌いって、言わねぇでくれ」
もの悲しげな声をだして、彼はキッチンに向かった。
「反則だって……」
……あたしも、言葉に気をつけないといけないのかもしれない。
真意からではない……彼の言葉はあたしを傷つけてきた。
言葉による痛みを、あたしは知っている。
あたしの言葉はどう?
本当はそんなこと思っていなかったの、ではすまされないことがある。
あたしが一番、よくそのことを知っているのに――。

