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サキュバスちゃんの純情《長編》
第2章 週末の終末

「……足、挫きました」
「あなたは阿呆なんですね」

 バカでもアホでもボケでもいいです。あなたが立ち去ってくれたら、私のこの惨めな気分も幾分か晴れるのに!
 睨んで見上げたら、思いの外優しげな視線にぶつかった。思わず、瞬きをしてじっと見つめてしまう。
 なんで、そんな顔、するの。
 なんで、そんな目で、私を見るの。

「そこに靴屋があるので、行きましょう」

 水森さんがひょいと私を抱き上げ、立たせてくれる。そして、砂埃や土を払ったあと、手を差し出してくれる。
 恐る恐る手を伸ばして、腕にしがみつく。
 なんで、優しくしてくれるの。
 私はあなたのことが、大嫌いなのに。

「驚かせてすみませんでした。靴は僕が弁償しますよ」
「お金ならあるので構いません」
「甘えておけばいいのに」

 大通りに面した靴屋の靴が、想像した以上に値段が高くて――結局、水森さんのカードに頼ることになったことは、痛恨の極みだ。

 そして、好きでも何でもない男に、どうしておんぶまでされなきゃいけないのか、……まぁ、私の左足が腫れてきたせいなんだけど。とにかく、その過程が解せない。
 ほんと、荒木さんだったら良かったのに。

「どこに向かっているんですか」
「僕の実家です」

 実家が近いとか、言っていたなぁ、そういえば。こんな都会の真ん中に家があるなんて、さぞかしお金持ちなんでしょうねぇ、と首を睨みつける。

 水森さんは、たぶん、何かしらのスポーツをしていたんだろう。初めて会ったときはスーツだったからそうは見えなかったけど、薄着の今なら、適度に筋肉がついている体だとわかる。
 大変、美味しそうな体、なのだ。
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