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サキュバスちゃんの純情《長編》
第2章 週末の終末

「着きましたよ」
見上げると、水森診療所、と看板が出ている。なるほど、医者は医者の子か。大きすぎない、街の診療所、だ。
……と、思ったら。
「こちらが家です」
診療所の裏手には、大きなお屋敷があった。日本庭園とかが似合いそうな邸宅だ。最近、私はお金持ちに会いすぎている気がする。
「お金持ち……」
「僕は三男坊なので、僕のものにはなりませんよ、この家」
木の門扉に、防犯カメラとセキュリティシステム会社のシールが似合わない。
扉の奥には、玄関まで続く広めの石畳と、十分な緑。カーポートには、日本家屋に不似合いなツヤツヤの高級外車が並んでいる。
うん、お金持ちだ。どこからどう見ても。
「ただいまー。義姉さん、豆買ってきましたよー」
「康太さんありがとう、助かりましたぁ……ええええっ?」
立派な玄関の扉の向こうは、うちのキッチン以上に広い玄関。しかも、綺麗。すべてがツヤツヤピカピカしている。掃除が行き届いているのだとすぐにわかるくらいに、綺麗だ。
奥からかわいらしい感じの女性がパタパタと出てきて、水森さんに背負われている私を見て驚いた。
「やぁだ、どうしたの? 怪我? あなたー! 救急箱ー! あ、でも、診療所使ったほうがいい?」
「義姉さん、落ち着いて」
「ねえ、お義母さーん! 康太さんが女の人連れてきたわよー!」
「はぁっ!? 康太ぁ!?」
水森さんにそっくりな男性に、三歳くらいの女の子と、その子を抱き上げる女性、そして、小紋の和服姿の年配の女性……奥からわらわらと水森家の人々が出てきて、好奇の視線にさらされる。そんないたたまれない空気の中、水森さんが簡単に私を紹介した。
「こちら、月野さん。湯川の彼女。足捻って転んで怪我したからうちに連れてきました」
「すみません、手土産もなく……お邪魔します」
履き慣れない高価なパンプスの上でペコリと頭を下げると、和服姿の年配の女性が「似てる」と呟いて、じぃっと私を見つめてきた。水森さんのお祖母様だろうか。白髪混じりであるのに、背はしゃんと伸び、綺麗な佇まいだと思う。
何に似ているのか、誰に似ているのかわからないまま、とりあえず、愛想笑いを浮かべておく。

