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サキュバスちゃんの純情《長編》
第2章 週末の終末

「今日は湯川と会わないんですか?」

 ……は?
 見上げた先に、もう二度と会いたくないと思っていた男の顔があった。
 眼鏡の奥の好奇心に満ちた目。
 湯川先生の、同僚の、精神科医。

「み、みずもり、さん!?」
「覚えていてくれたんですね。光栄です」

 こんな無礼な人、早く忘れたいんですけど! ってか、何でここに!? 病院からは遠いんだけど!

「実家の近くなんで、ここ。あ、ちょっと、逃げないで」

 そりゃ、逃げるわ!
 荷物を引っつかみ、トレイを返却してから、早歩きで店外へ出る。水森さんが追いかけてくる気配に気づいて、私は駆け出した。

 あぁ! もう! ブレンド飲みたかった!!


◆◇◆◇◆


 ヒールのあるパンプスで全力疾走なんてするもんじゃない。ただでさえ運動不足なのだから、足を挫いたり、転んだり、パンプスのヒールが折れたり、するに決まっている。

「あなたは馬鹿なんですか?」

 頭上から降ってくる声は、呆れている。

「ヒールは折れているし、血も出ているじゃないですか。傘も忘れて行ったでしょう。立てますか?」

 足を挫いて転んでヒール折ったのは私です。泣きそうになりながら地面をバシバシ叩いているのも私です。
 ……なんで、走るの、速いのよ!?
 周りの視線も痛いけど、左足も痛い。めちゃくちゃ痛い。
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