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サキュバスちゃんの純情《長編》
第2章 週末の終末

 脱衣所に干してあった服と下着は乾いている。さすがに独身寮のベランダで女物の服は乾かせないし、雨も降っていたので、一晩で乾きそうなものだけ洗ったのが良かったようだ。
 シャツを脱いで、それらを身につける。

「靴下、靴下」

 白い薄手の靴下はどこへ放ってしまったのか。脱衣所にもキッチンにも、リビングにもない。
 だとすると、寝室かな。
 ペタペタと足音が鳴らないように、宮野さんが眠る寝室へと入る。シングルベッドと本棚くらいしかない部屋の中、目当ての靴下はすぐ見つかった。ベッドのそばに落ちていた靴下を拾い上げて履く。

「……」

 軽い寝息を立てる宮野さんの短い髪を撫で、目を細める。ベッドの脇に座って、しばらく寝顔を見つめる。

 彼とセフレであった期間は三年。短いようで、長かった。
 彼は私への執着をひた隠しにしていたから、関係が長く続いたのだろう。私の「心」まで欲しがり、それを伝えてくる人は、すぐに断ち切ってしまうから、宮野さんは稀有な存在だと言える。

 宮野さんには、幸せになって欲しい。

 損失をカバーするために生涯かけて銀行に尽くすのだと決めた彼を、その仕事ぶりを、常務が「娘を嫁に出してもいい」と買ってくれたのだ。
 宮野さんは自由がなくなると嘆くけれど、きっと常務は彼を公私共に支えてくれるはずだ。

 そして、父親の勧めだとはいえ、結婚を決意した常務の娘さんが、彼をしっかり守ってくれる人だといいな。
 ……なんて、私が考えることではないのだけど。

「もう、死ぬことを考えないでね」

 生きることだけ考えて欲しい。その価値が、彼にはあるのだから。
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