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サキュバスちゃんの純情《長編》
第2章 週末の終末

「キスしたい」

 掠れた小さな声でねだられる。
 聞かなくてもいいのに。言わなくてもいいのに。
 私が拒否するわけ、ないのに。

「潤の好きなようにしていいよ」

 カバンは床に落として、腕を宮野さんの首の後ろに巻きつける。密着度が増して、もっと宮野さんの熱が伝わる。宮野さんの頬にキスをして、一瞬だけ視線を絡めて。

「あかり、好き」

 震える唇が軽く重なって、離れたと思ったらまたすぐに重なる。啄まれるような優しいキス。何度も何度も角度を変え、甘い息を吐き出しながらお互いの唇の柔らかさを堪能する。そう、宮野さんの唇は、男性にしては珍しく柔らかいのだ。

 ねだるように薄く唇を開くと、宮野さんの舌が恐る恐る挿入ってくる。彼はいつだって「本当にいいの?」という顔で私の体に触れてくる。彼の不安は、結局、払拭させてあげられなかった。

 彼の温い舌に吸い付いて唾液を飲んだあと、私の舌を絡め合わせる。宮野さんは舌に吸い付きながら、ぎゅうと強く私を抱きしめる。窒息してしまいそうなくらいの強さだ。少し痛い。

「じゅ、っ」

 宮野さんに抗議しようとしても、言葉を発することが許されない。唇が、舌が、私を貪る。
 体重をかけられ、後ろにあったソファに倒れ込む。それでも、唇は離れない。革張りのソファの冷たさが気持ちいい。体が沈み込むくらいに柔らかい。

「じゅ、ここで?」

 一瞬だけ舌が離れたときに、聞く。
 宮野さんはラブホでは必ずベッドを使っていた。ソファや浴室では繋がったことがない。真面目で「普通」が大好きな人なのに、自分の部屋だからベッドじゃなくても良いのだろうか。
 何だか、いつもと違う雰囲気に、飲まれてしまいそうだ。

「ここでしたい。あかりを抱きたい」
「ベッドじゃなくていいの?」
「……ベッドは新居に持っていかないけど、ソファは持っていく予定なんだ」

 いや、意味がわからない。何の話?
 新居に持っていく家具の話をしているんじゃなくて。

「あかりと抱き合った記憶を、持っていきたい」

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