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サキュバスちゃんの純情《長編》
第5章 恋よ来い

でも、そうじゃない。
叡心先生と同じくらい、荒木さんのことが、好き? 本当に?
愛されたとして、一緒に死にたいと思えるくらい、好きなの?
「……本気に、なれたら、いいのに、ね」
なれるわけ、ないよなぁ。
叡心先生は、超えられない。何年、何十年生きてきたって、あの人以上に愛せる人は、もういない。愛してくれる人も、いない。そんな当たり前の現実を、突きつけられた気分だ。
「私、たぶんもう、誰にも本気にはなれない」
「翔吾でも?」
「うん」
「他の男でも?」
「……うん」
健吾くんの横を通り過ぎようとして、立ち止まる。掴まれた右手が、熱い。振り向くと、右手首を掴んだまま、どうすればいいのかわからない、といった表情の健吾くんと目が合う。彼も、思わず引き止めてしまったみたいだ。
「あんたが本気にならないなら」
絞り出した声は、切なく、悲しい。
「――相手を本気にさせるなよ」
チクリ、胸が痛む。
「あんたなら、上手にできるだろ。本気にさせないように、うまくやれるだろ」
それは、君の、お兄さんのこと?
それとも、新しい報告書でもある?
「お願いだから。頼むから……」
右手首が熱い。焼けるように痛い。
「――そんな顔で、笑わないでくれ」

