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サキュバスちゃんの純情《長編》
第4章 過日の果実

 先生が毎週欠かさず私に精液を与えてくれるなら、それでも良いのだけど、忙しい先生にはそれは難しい。
 この三連休も結構無理をして取ったようで、来週と再来週は埋め合わせで仕事なのだそうだ。
 術後すぐの患者さんはいないみたいだから、急変で呼び出されることはないだろうと言っていたけど、どうなるかはわからない。

「相手が結婚したら、別れるの?」
「うん。不倫はしないの。先生も、結婚するときは言ってね」
「大丈夫。あと十二年はしない予定だよ」

 四十代でも、お医者様ならモテるだろう。早漏が酷くなっても、きっと大丈夫だろう。歳のせいにできるし。

「……四十五歳は、父が亡くなった歳なんだ」
「お父様が?」
「医者の不養生ってやつなのかな。心筋梗塞で倒れて、そのまま逝ってしまった」

 湯川先生は、ぽつりぽつりとお父様との昔話をしてくれる。

 学生時代から付き合っていたお母様と結婚し、湯川先生が産まれたこと。
 三十五歳でクリニックを開いたこと。
 毎日いきいきとしているお父様を見て、自分も医者を志したこと。
 受験のときには常にお互いの意見をぶつけて、衝突しながら、将来のことを語り合ったこと。

「父のような医者になりたいって、ずっと背中を追いかけてる。俺も一応名医だと言われてはいるけど、俺はまだ父を超えられていない気がするんだ」

 それは、湯川先生が初めて私に見せた弱い部分なのかもしれない。先生の表情まではわからないけれど、きっと、泣きそうになっているに違いない。

「心臓血管外科へ行ったのは、そういう理由があったんだね」
「……そうだね。助けられるなら、助けたいんだ。でも、助けられなかった命も、いっぱい見てきたけど」
「ねぇ、先生」

 頭を撫で、髪を梳きながら、微笑む。

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