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サキュバスちゃんの純情《長編》
第4章 過日の果実

箱根の森駅から箱根の森美術館へ。荷物はコインロッカーに詰め込んで、先に館内のビュッフェで昼食をすませる。
ポーチを肩にかけ、UVカットの薄手のパーカーを羽織り、麦わら――ストローハットをかぶって、彫刻が並ぶ庭を歩く。地面から足が出ているものや、子どもたちが遊べるものもあり、とても面白い。
「湯川先生はここは初めて?」
「何回か来たことがあるよ。高校生のときが初めてだったかなぁ」
箱根の森美術館は彫刻が有名だと言うくらいだから、日本画は……村上叡心の絵はここにはないだろう。ピカソ館にもきっとないに違いない。そこだけは安心できる。
「先生が連れていきたいって言っていた場所は、ここ?」
「ここじゃないよ。それは明日と明後日に予定してる。もちろん、まだ内緒」
木陰を選んで歩きながら、湯川先生とこうしてのんびり歩くのは初めてだなぁと思う。買い物では何度か一緒に歩いたことはあるけど、自然の中でゆっくり過ごすのは初めてだ。
まぁ、私たちの関係上、ホテルでセックスをするだけのことが多かったから。
「……楽しいね」
ボクシングをするうさぎの像を見ながらしみじみと先生は呟く。私はうさぎたちの減量の具合がスゴいなぁと思いながら、闘う二匹を見つめる。
……この彫刻のどこに楽しい要素があるのか、私にはわからない。先生ならわかるのだろうか。
「あかり。旅館に着いたら……」
「うん?」
「すぐに抱きたい」
思わず湯川先生を見上げてしまう。欲情と懇願。熱を帯びた視線が私を射抜く。見つめ合ったまま、動けなくなる。
……あ、捕らえられた。

