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Oshizuki Building Side Story
第5章 Coloring in a moon

「だけど杏奈も結城も、なんで付き合いが長いあたしじゃなくて、朱羽にそんな話しているのよー!」
ぷぅっと膨れてしまったあたしの頬を、片肘をついてあたしを見る朱羽が、笑って反対の指でつつく。
「なに? 妬いたの?」
あ~くそ。
朱羽のこの嬉しそうな顔!
きらきらオーラを出して、どこの王子様よ。
「違います!」
可愛くないあたしは、つんとしてしまった。
「ふぅん? 俺はいつも、あなたの視界にいる男達に妬くけど」
本当にさらりと、朱羽は言う。
「いまだ結城さんにも。木島さんにも」
その返答に驚いて、朱羽を見つめ返した。
「結城はいいとして、木島くんにも!?」
「……なんで結城さんはいいんだよ」
「いや、だって……木島くんだよ?」
「なんだかんだ言って、仲良いじゃないか」
「いやいや。あたし上司だし、木島くん部下だし!」
「だったらあなただって、部下に構うより俺を頼って、ずっと俺の傍にいればいいのに」
「いやいやいや……」
笑うあたしに、朱羽は傾けた顔を近づけ、あたしの唇を奪う。
「ちょ!」
あたしは慌ててあたりを見渡した。
よかった、誰もいない。
「俺は見られてもいいよ。いっそのこと、東京中ずっとキスをし続けて、俺のものだとアピールしたいくらいだ」
「な、なにを……」
「早く、俺の気持ちに追いついてきてよ、陽菜。俺は、あなたが思っている以上に、あなたが好きでたまらない」
「……っ」
ここ、会社なのに。
「今すぐ結婚して、あなたの未来もすべてが欲しい。もう『俺が身辺整理するまで待っていて』なんて、言えない。俺が待っていられそうもないから」
こんな真剣な眼差しを向けられたら、どうしようもないくらいに……幸せだなって思うんだ。
「あ~れ~、鹿沼ちゃん。顔真っ赤! おのれ、香月ちゃん。杏奈がいない間に、鹿沼ちゃんに悪戯したな~?」
「ふふふ、別に悪戯なら、三上さんがいてもしますよ?」
杏奈のキラキラとした期待する、ぱっちりとした大きな目。
近づいてくる朱羽の顔。
あたし、人前で披露できない。
そんな羞恥プレイ、断固反対!
「ふぎぃぃぃぃぃぃ!!」
尻尾を踏まれたネコの叫び声を上げてしまって朱羽をかわすと、杏奈と朱羽の笑い声が重なった。

