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一夜草~ひとよぐさ~【華鏡(はなかがみ)】
第33章 浜辺の約束
 余計に泣き出した千草を宥めるのは頼嗣にとっても至難の業であった。
「あれで気が長いとは、よく言ったものだ」
 あの遠い日のことを思い出し、頼嗣は笑った。千草はといえば、遠い眼になっている。
「伏籠の雀を犬君が逃がしつる」
 それは〝源氏物語〟の若紫の一文だ。千草のはるかな視線は海の方に向いている。
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