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姉枕
第1章 東京……十八歳
 腰まわりが細く絞られているそのワンピースは、ほっそりとした体のラインも浮き立たせていた。
「あ~、少し痩せたかも。だいぶ、待った?」
「ううん。大丈夫、駅のトイレに行っとった」
「そうか。東京駅の中、めっちゃ広かったやろ」
 姉さんは財布しか入らなさそうな小さなバッグを肩にかけ直しながら、朗らかに微笑んできた。
 十数年間も、同じ屋根の下で、誰よりも長く顔をつきあわせていたというのに、僕は姉さんに微笑みかけられて、不覚にも顔が熱くなった。
「うん。広かった。トイレもすごいなぁ。めっちゃ綺麗や。歯も磨けるし、顔も洗えるんやで」
 照れ隠しもあって、僕は早口でまくし立てるように喋った。
 姉さんは「うんうん」と笑顔で相槌を打ち続け、僕が喋り終えたところで、
「でも、あんた、寝癖残ってるで。前髪が爆発しとるわ」
 東京のど真ん中で、我が家にいた頃のように、体を近づけて、僕の寝癖に触れようとしてきた。
 久しぶりに至近距離で感じる姉さんの体からは、ふんわりと甘い桃のような香りがした。
 甘いけど、大人の女の人の香り。それは僕の記憶にない姉さんの匂いでもあった。
「いいって」
 つい姉さんの手を払いのけようとしてしまったのは、照れている自分を誤魔化したかったからだ。
 周りの視線も気になった。
 さっきまで行き交う人々は僕の存在など見向きもしなかったのに、姉さんと立ち話を始めてからは、通りすがりにちらちらと見てくるのだ。
 姉さんは僕が周囲を気にしていることを悟ったのか、そっと体を離すと、
「そや、朝ご飯まだやろ。駅の中で何か食べていこうよ」
 最初からそう計画していたかのように、すらすらと言った。
「うん。お腹はすいた」
 僕は自分で寝癖を弄りながら言った。
「じゃ、いこ。こっち」
 姉さんが先に歩き出す。僕は綺麗になった姉さんと並んで歩くのが恥ずかしくて、後ろからついていくことにした。
 姉さんの後ろ姿も久しぶりに見た。お尻も小ぶりになっていた。歩き方も妙に女っぽくなっていた。一歩踏み出すたび、ワンピースから浮き立つ双臀が、なまめかしく、くねって揺れる。それは高いヒールのせいなのか、それとも姉さんの体が自然にそうさせているのか、わからないけど、僕は気づくと鼻腔を膨らませていた。
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