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父に刻印された身体
第6章 泡の向こうの境界線
カタリと低い音を立てて父がゆっくりと扉を開け、湿り気と熱気の充満する浴室へと足を踏み入れてきた。
私は自分の身体を隠すように視線を急いで落とし、ぎこちなく顔を背けた。立ち上る湯気の膜に邪魔されて、父が今どんな目をしているのかまでは窺い知れない。
ふと、水滴で白く曇った大きな鏡の隅に、父の姿がぼんやりと浮かび上がった。
濡れて肌に貼りつく薄いTシャツと、無骨な太ももが剥き出しになったボクサーパンツ姿。普段の「父親」という鎧を半分脱ぎ捨てたようなその姿が、狭い浴室の熱気の中にぽつんと佇んでいた。
頭上から降り注ぐシャワーの温水とともに、父の大きな手が遠慮がちに私の濡れた髪へと伸びてくる。
髪を濡らしていく動作のひとつひとつに、男の人の手らしい無骨さと、壊れ物を扱うようなぎこちなさが混ざり合っていた。
おそるおそる指を入れ、髪をすくい上げるたび、父の指腹が頭皮やうなじの皮膚に触れるダイレクトな感触に、ぞくぞくと背筋が痺れる。
手のひらで泡立てたシャンプーを馴染ませながら、父は手探りで、そっと撫でるように髪を擦り合わせていく。
加減がわからないのか、あまりにも弱く頼りない指の動きが、かえって肌の表面を甘くくすぐった。
けれど、私が何も言わずに身を委ね、うっとりと目を閉じていると、父は徐々に手応えを確かめるように洗い方を変えていく。
指先が毛束の奥深くへと滑り込むたび、細かな泡がシュワシュワと小さな音を立てて弾け、ぬるまった泡の雫が首筋から背筋へと伝い落ちていった。
「……痛くないか? 力、強すぎないか」
頭上から、どこかわずかに震える父の低い声が落ちてくる。
「うん……大丈夫。お父さん、すごく気持ちいい……」
そう熱を孕んだ声で応えると、父はほっと胸を撫で下ろすように小さな吐息を漏らした。
頼りにされたことが純粋に嬉しいのだろう。どこか探り探りではあるものの、私を洗う父の指先には、慎重さと隠しきれないぬくもりがたっぷりとこもっていた。
弾ける泡の感触と、タイルの上で砕けるシャワーの水音。そして、父の指先から頭皮を通じて全身へと伝波していく微かな体温。
それらすべてが、昨夜味わった孤独な不快感を甘美に塗りつぶし、私の身体の奥深くまで沁み渡っていく。
私は自分の身体を隠すように視線を急いで落とし、ぎこちなく顔を背けた。立ち上る湯気の膜に邪魔されて、父が今どんな目をしているのかまでは窺い知れない。
ふと、水滴で白く曇った大きな鏡の隅に、父の姿がぼんやりと浮かび上がった。
濡れて肌に貼りつく薄いTシャツと、無骨な太ももが剥き出しになったボクサーパンツ姿。普段の「父親」という鎧を半分脱ぎ捨てたようなその姿が、狭い浴室の熱気の中にぽつんと佇んでいた。
頭上から降り注ぐシャワーの温水とともに、父の大きな手が遠慮がちに私の濡れた髪へと伸びてくる。
髪を濡らしていく動作のひとつひとつに、男の人の手らしい無骨さと、壊れ物を扱うようなぎこちなさが混ざり合っていた。
おそるおそる指を入れ、髪をすくい上げるたび、父の指腹が頭皮やうなじの皮膚に触れるダイレクトな感触に、ぞくぞくと背筋が痺れる。
手のひらで泡立てたシャンプーを馴染ませながら、父は手探りで、そっと撫でるように髪を擦り合わせていく。
加減がわからないのか、あまりにも弱く頼りない指の動きが、かえって肌の表面を甘くくすぐった。
けれど、私が何も言わずに身を委ね、うっとりと目を閉じていると、父は徐々に手応えを確かめるように洗い方を変えていく。
指先が毛束の奥深くへと滑り込むたび、細かな泡がシュワシュワと小さな音を立てて弾け、ぬるまった泡の雫が首筋から背筋へと伝い落ちていった。
「……痛くないか? 力、強すぎないか」
頭上から、どこかわずかに震える父の低い声が落ちてくる。
「うん……大丈夫。お父さん、すごく気持ちいい……」
そう熱を孕んだ声で応えると、父はほっと胸を撫で下ろすように小さな吐息を漏らした。
頼りにされたことが純粋に嬉しいのだろう。どこか探り探りではあるものの、私を洗う父の指先には、慎重さと隠しきれないぬくもりがたっぷりとこもっていた。
弾ける泡の感触と、タイルの上で砕けるシャワーの水音。そして、父の指先から頭皮を通じて全身へと伝波していく微かな体温。
それらすべてが、昨夜味わった孤独な不快感を甘美に塗りつぶし、私の身体の奥深くまで沁み渡っていく。

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