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父に刻印された身体
第5章 痛みが理性を狂わせる夜
家に戻って突きつけられたのは、想像を絶する「小さな不便」の連続だった。
買ってきた荷物を抱えていると、ドアノブを回すことすらできない。いや、重いレジ袋を左腕に引っかけることすら痛むため、そもそも運ぶことだって不可能なのだ。
包丁を握る料理なんて論外で、水仕事の洗い物もキャスト(キャスト)を濡らすわけにいかず完全にアウト。
冷蔵庫の重い扉を右手の指先だけで引こうとするたび、肩から腰にかけて不自然な力が入り、弾みで手首の奥が激しく疼く。
お椀を手に持って食べる文化のありがたみを痛感しながら、右手一本でスプーンやフォークを操る食事は、まるで幼子に戻ったかのようだった。お皿を固定できないから食べ物は逃げ、食べ終わる頃には溜め息と徒労感でぐったりとしてしまう。
キャップの固いペットボトルは最大の敵で、太ももで挟んで必死に右手を回しても空回りするだけ。
ボサボサの髪を結ぼうとしても手がもう一本足りず、鏡の前で何度も試しては、結局ハーフアップすら諦めて髪を垂らすしかなかった。
洗顔に至っては悲惨なもので、片手で泡を転がしても顔の半分しか洗えず、すっきりしない違和感だけが残る。

今まで呼吸をするように無意識に行っていた生活のすべてが、左手という「支え」を失った途端、難攻不落のダンジョンへと姿を変えていた。
リビングから洗面所へ、キッチンから自分の部屋へ。一歩移動するたびに新しい仕掛けトラップが待ち構えており、油断して左手を使おうものなら、容赦ない激痛の罠が襲いかかってくる。
まさか、朝の身支度と一回の食事だけで、体中のエネルギーを使い果たすほど疲れ果てるなんて思ってもみなかった。
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