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父に刻印された身体
第5章 痛みが理性を狂わせる夜
高校2年の、蒸しつける夏。
あの日以来、静かに保たれていた二人だけの危うい均衡は、ひとつの事件をきっかけに一気に崩れ去り、新たな局面へと転転した。
それは私がずっと心の底で渇望していた破滅と変化の始まりであり、止まっていた運命の歯車が狂おしい勢いで回転し始めた瞬間だった。
休日の午後、家の階段を下りる途中で、ふと足を滑らせた——どこにでもある、ほんの些細な滑落事故。
階段の途中で体勢を崩した私は、咄嗟に左手を冷たいステップについて身体を支えようとした。けれど、容赦なく一点にかかった自重によって、ゴリッと不気味に骨が軋むような衝撃が腕を伝った。
一瞬遅れて、灼熱の針で刺されたような激痛が左手首を突き抜け、私は声を上げることもできず、その場に崩れ落ちて膝を折った。
ただの転倒。誰も責められない不注意。けれど、関節の奥からじんじんと込み上げてくる非日常的な痛みの感触に、私はどこか奇妙な予感を覚えていた。
「梨亜っ!? 大丈夫か!」
下からドタバタと大きな足音が響き、慌てて駆け寄ってきた父が、床に伏せる私の姿を見て一瞬で血の気を引かせた。
私の左手首は、みるみるうちに熱を帯び、赤紫色に不気味に腫れ上がっていく。わずかに指を曲げようとするだけで、叫び出したくなるほどの痛みが走った。
「触るなよ、動かすな……っ!」
冷静さを失った父の手が、私の肩や背中に触れる。震える手で私を大事な壊れ物のように優しく抱き上げると、父は自分の上着を私に羽織らせ、なりふり構わず車へと運び出し、病院へと急いだのだった。
あの日以来、静かに保たれていた二人だけの危うい均衡は、ひとつの事件をきっかけに一気に崩れ去り、新たな局面へと転転した。
それは私がずっと心の底で渇望していた破滅と変化の始まりであり、止まっていた運命の歯車が狂おしい勢いで回転し始めた瞬間だった。
休日の午後、家の階段を下りる途中で、ふと足を滑らせた——どこにでもある、ほんの些細な滑落事故。
階段の途中で体勢を崩した私は、咄嗟に左手を冷たいステップについて身体を支えようとした。けれど、容赦なく一点にかかった自重によって、ゴリッと不気味に骨が軋むような衝撃が腕を伝った。
一瞬遅れて、灼熱の針で刺されたような激痛が左手首を突き抜け、私は声を上げることもできず、その場に崩れ落ちて膝を折った。
ただの転倒。誰も責められない不注意。けれど、関節の奥からじんじんと込み上げてくる非日常的な痛みの感触に、私はどこか奇妙な予感を覚えていた。
「梨亜っ!? 大丈夫か!」
下からドタバタと大きな足音が響き、慌てて駆け寄ってきた父が、床に伏せる私の姿を見て一瞬で血の気を引かせた。
私の左手首は、みるみるうちに熱を帯び、赤紫色に不気味に腫れ上がっていく。わずかに指を曲げようとするだけで、叫び出したくなるほどの痛みが走った。
「触るなよ、動かすな……っ!」
冷静さを失った父の手が、私の肩や背中に触れる。震える手で私を大事な壊れ物のように優しく抱き上げると、父は自分の上着を私に羽織らせ、なりふり構わず車へと運び出し、病院へと急いだのだった。

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