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父に刻印された身体
第3章 危険な距離の測り方
けれど私はもう、自分の心に嘘をつき続けることなんてできなかった。
体内で渦巻く熱い想いを止められないことも、その熱で父を溶かしたいと願ってしまう己の歪みも。たとえこの一線を踏み越えた先に絶望が待っていようと、私は父の胸へと飛び込まずにはいられなかったのだ。

静まり返った二人きりの家の中、私は父から滲み出るあらゆる変化を、貪るような眼差しで見つめていた。
首元を大きく覗かせたルームウェアから伝わる肌の匂い。夕食を配膳する際、触れ合いそうなほど至近距離で交わる視線。
そのたびに、父は一瞬だけ酸素を吸い込むのを忘れたかのように胸を固直させる。静寂を切り裂く、一秒にも満たない間。言葉にすらならない微かな滞留。
私はその奇跡のような間を、逃さず捉えていた。
食卓の向かい側から注がれる父の視線は、明らかに私の鎖骨から胸元へと落ち、弾かれたように逸らされる。まるで触れてはならない毒花を目にしてしまったかのように。視線を泳がせながらつく咳払いが、父の固い理性に亀裂が入りつつあることを雄弁に物語っていた。

「ん……」

喉の奥で押し殺すように漏れた低い吐息。それは単なる照れ隠しではなく、浮き立ちそうになる男の本能を抑え込もうとする必死の抵抗に聞こえた。
私は胸元を隠そうともせず、無垢で無邪気な「愛娘」を完璧に演じながら父を覗き込む。

「どうしたの、お父さん?」

わざと語尾を甘く揺らして尋ねると、父は一瞬、喉を鳴らして言葉を詰まらせた。そして数秒の沈黙の後、必死に取り繕った父親の微笑みを浮かべた。

「いや……なんでもないよ」

うわべだけの言葉の裏に潜む、確かな揺らぎ。何でもないはずがない。私の仕掛けた蜜の毒は、確実に父の理性を侵食し始めている。私は勝利を確信した。

食後、リビングの薄暗がりのなかで並んでソファに腰掛ける。画面の明かりが交互に二人を照らす中、私はクッションに深く身体を預け、そのまま滑り落ちるように父の肩へ頭を乗せた。
布越しにダイレクトに伝わる、父の肩の硬さと急激な緊張。父の規則正しかったはずの呼吸が浅く速くなり、私の鼓動と怪しく共鳴し始める。

「……梨亜、疲れたのか?」

どこか掠れた父の問いかけに、私は首筋を擦り寄せるようにして小さくかぶりを振った。

「ううん。……ただ、お父さんにこうして触れてると、一番落ち着くの」
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