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ドラゴンの潜む山
第1章 ドラゴンの潜む山

 穂乃果は部屋の壁を見渡した。そこには美桜が描いたドラゴンの絵が紙に描かれ、びっしりと貼られている。画用紙に、便箋に、折り紙に、ルーズリーフに、余った去年の年賀状に。そこに書かれたドラゴンの八割が真っ黒だった。顔も体も鱗も足も、全部黒い。パッと目の前に置かれても、ドラゴンだとは思わないかもしれない。でもその中に時々カラーのドラゴンがいる。ピンクだったり黄色だったり青だったり紫だったり。
 美桜曰く、それらは全て嘘なのだと言う。美桜の中のドラゴンは黒いのだ。
 穂乃果はもう一度カレンダーを一瞥した。今は十月。この時期に、毎年美桜は一週間学校を休む。バツ印がそうだった。

「おばさん、お邪魔しました! 帰るねー」

 穂乃果は部屋を出て玄関に向かいながら、のれんの奥の台所に声をかけた。その向こうからいい匂いが漂ってきて、穂乃果のお腹が鳴る。今日の夕飯は煮物だろうか。

「あ、待ってほのちゃん!」

 美桜の母がぱっと顔を出した。

「サツマイモわざわざありがとね! これ、お返しに。少しだけど」

 ビニールに入れて持たせてくれたのは、かぼちゃだった。

「うちで採れたやつ」
「ありがとうございます! 煮てもらお」
「ほのちゃんのお母さんによろしく」
「伝えときます!」

 穂乃果はかぼちゃをぶら下げて玄関の引き戸を開けた。日が沈みかけて、外はすっかり薄暗くなっていた。

「気をつけてね」
「はーい」
「ほのちゃん」

 美桜の母は声を潜め、付け加えるように言った。

「いつも美桜と仲良くしてくれてありがとね」

 それは彼女の口癖でもあった。
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