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ドラゴンの潜む山
第1章 ドラゴンの潜む山
(あの日と一緒だ。……また、言えなかった)
風が強かった。激しく吹きすさぶたびに、横殴りの雨が穂乃果の全身を叩く。
制服はとうにビジュ濡れだった。息を切らし、なんとか山の入り口まで辿り着いた穂乃果は、その奥を見据える。
木が大きく揺れていた。
「美桜ー!」
叫んだ声は、あっという間に雨音と山に吸い込まれた。
獣道の先には闇しかなく、まるで地獄が口を開けているようだった。
突然、空が光った。穂乃果はとっさに体を縮め、両耳を塞ぐ。雷鳴はまだ遠かった。
美桜は絶対この奥にいる。連れ戻さなくては。
穂乃果は震える足に鞭打ち、一歩を踏み出した。
足元はかなり滑った。急な傾斜、苔《こけ》、枝や葉っぱで道と呼べるのかどうかもわからない。通学用の使い古した運動靴の底はすり減っていて、なおさらだった。
「美桜ー! 美桜ー‼︎」
呼びかけながら登り続けた。途中でスマートフォンの存在を思い出しポケットを探ると、びしょ濡れだった。つくにはついたが、圏外。
それは美桜だけでなく、他の誰とも連絡がつかないことを意味している。
「美桜、お願い返事して……!」
穂乃果は再び呼びかけた。そして思いつき、スマホのライトで前方を照らす。周囲も照らすと、右側に靴が片方落ちているのが見えた。
茶色いローファーだった。美桜はいつも、通学の時ローファーを履いている。

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