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『帰り花の夜に』~義母の静謐なる背徳
第2章 義息~超えてはいけない境界線(1)
どれぐらい眠ったのだろうか。

はっと目を覚ますと、レースのカーテンを通して朝の光がソファーの裾野を照らしている。長女たちは私に背を向けた格好で食卓に座り、私が葉月に伝授したフレンチトーストを作って、それを頬張っていた。部屋の中には、トーストの匂いとは違う、焦げたパンを連想させるようなコーヒーの香りが仄かに漂っている。

「おはよう」

「おはよう、ママ。良く寝れた? でさ、起きたばっかで悪いんだけど、こっちに来てくれる?」

相変わらずのマイペース。なによ、と思いつつ気だるい体でソファーから立ち上がった。
葉月たちは微笑みながら、「ママ、遅れたけど、お誕生日おめでとう」とピンクのリボンの付いた小さな箱を手渡してくれた。

「ええ、サプライズだわ。うれしい。ありがとう」

娘たちの気持ちが嬉しくて、思わず目頭が潤み、声も震えた。

「ねえ、開けてみてよ」

「わかった。開けるね」

リボンを紐解き、パカっと蓋を開けると、ブルーのベルベット生地の袋が見えた。

「なにかしら……もしかして……」

ブルーの袋を開けると、内側のサテン地の切り込みに挟まった一粒の黄金色に輝く宝石のピアスが姿を現した。思わず「すっごく綺麗」と感嘆の声が出た。

「ママ、それ何て石か分かる?」

「知らないわ。初めて見た。ねえ、何て名前の石なの?」

宝石の正体は実は分かっていたけど、敢えて知らない振りをした。

「シトリンっていうの。ママの誕生石よ。太陽のエネルギーを持つ石。ねっ、明るいママにぴったりでしょ?」

「そうなの。本当、ありがとうって言葉しか思いつかないわ」

滅多なことでは泣かない私だけど、葉月の成長の証を強く感じ、抑えきれない喜びが一粒の涙になって零れ落ちた。

「ねえ、ママってところで何歳になったんだっけ?」

そんなことも知らないの、と拍子抜けしつつ、「四十八歳になりました」と告げた。

ええそうなの、って心の声が聞こえてきそうなほど、二人は驚いた顔をしている。

「お義母さん、四十八歳にはとてもじゃないですが見えないですよ。お若いし、それに奇麗だし」

葉月の前でそれはだめよ、と思いつつ、なりふり構ってられない感情が沸き上がり、彼にも「ありがとう」と言った。

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