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国選種付人物語
第1章 理沙さんと種付人
「――本当に、いいのか、理沙」
朝食のトーストを力なくかじる夫・哲也の顔は、ここ数日ずっと曇ったままだ。
204X年。未曾有の少子高齢化に歯止めをかけるべく施行された『国家人口増加促進法』。
その施策の一つとして導入されたのが、国選種付人制度だった。
一定の年齢に達しても子供のいない既婚女性に対し、国が選定した「種付人」との性行為を義務付ける。
当初は倫理の崩壊とまで叩かれた法律だったが、出産した夫婦に対する手厚い優遇措置と、目に見える成果は、いつしか国民の意識を書き換えていった。
今やそれは、効率的な妊娠手段の一つとして、社会に定着しつつあるのだった。
「もう、何度も言わせないでよ。国の決まりなんだから仕方ないじゃない」
理沙は哲也のコーヒーを淹れながら、努めてサバサバとした声で返した。
才色兼備。かつては、職場の同僚からも「しっかり者」と頼られていた彼女は、この不条理な現実を、すでに脳内で割り切っているつもりだった。
「あのね、私が愛しているのは哲也だけ。これはただの『事務手続き』。予防接種とか、健康診断と同じよ。パパッと終わらせて、それで終わり。それだけのことよ」
「だけど……理沙が見知らぬ男と…。…くっ!」
哲也が拳を握りしめ、悔しさに震わせる。
この制度に反対する者は、今でも少数ではあるが存在し、哲也もその一人だった。
しかし、この国家の施策を妨害すれば、たとえ家族であっても厳罰に処される。
理沙は夫の隣に腰掛け、その強張った手を優しく包み込んだ。
「大丈夫。私の心は1ミリも動かないから。だから、哲也はいつも通りお仕事に行って。ね?」
妻の毅然とした態度に、哲也はそれ以上の異論を挟むことができなかった。
やるせない表情のまま、重い足取りで玄関を出ていく。
朝食のトーストを力なくかじる夫・哲也の顔は、ここ数日ずっと曇ったままだ。
204X年。未曾有の少子高齢化に歯止めをかけるべく施行された『国家人口増加促進法』。
その施策の一つとして導入されたのが、国選種付人制度だった。
一定の年齢に達しても子供のいない既婚女性に対し、国が選定した「種付人」との性行為を義務付ける。
当初は倫理の崩壊とまで叩かれた法律だったが、出産した夫婦に対する手厚い優遇措置と、目に見える成果は、いつしか国民の意識を書き換えていった。
今やそれは、効率的な妊娠手段の一つとして、社会に定着しつつあるのだった。
「もう、何度も言わせないでよ。国の決まりなんだから仕方ないじゃない」
理沙は哲也のコーヒーを淹れながら、努めてサバサバとした声で返した。
才色兼備。かつては、職場の同僚からも「しっかり者」と頼られていた彼女は、この不条理な現実を、すでに脳内で割り切っているつもりだった。
「あのね、私が愛しているのは哲也だけ。これはただの『事務手続き』。予防接種とか、健康診断と同じよ。パパッと終わらせて、それで終わり。それだけのことよ」
「だけど……理沙が見知らぬ男と…。…くっ!」
哲也が拳を握りしめ、悔しさに震わせる。
この制度に反対する者は、今でも少数ではあるが存在し、哲也もその一人だった。
しかし、この国家の施策を妨害すれば、たとえ家族であっても厳罰に処される。
理沙は夫の隣に腰掛け、その強張った手を優しく包み込んだ。
「大丈夫。私の心は1ミリも動かないから。だから、哲也はいつも通りお仕事に行って。ね?」
妻の毅然とした態度に、哲也はそれ以上の異論を挟むことができなかった。
やるせない表情のまま、重い足取りで玄関を出ていく。

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