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背中のチャックを下ろす時…
第1章 背中のチャックを下ろす時…
 3

「………」

「今度は、チャックが下ろせないんじゃないのかなぁ……なんてさ……」

「え、あ…」
 抱き締められながら、不意に後ろを振り向くと…

「や、んん……」
 振り向いた先に、彼の顔があり…

「………」
 キスをされてしまった。

「んん…な、なに?…」

「………」
 彼は黙って、キスをしながら、背中のチャックを下げてくる…

 ジーーー………
 チャックの下りていく金属音が、小さく鳴り…

「や、ん…」
 彼は、チャックを全開に下ろし…
 サッと、上半身を脱がせてきたのだ。

「……はぁ、ふぅ…」
 耳元に、彼の吐息が聞こえ…

「や、ん、あぁん」
 肩に唇が触れ、わたしは、ビクンと震えてさまう――

 そう、わたしは、肩が敏感に感じてしまう…

「はぁ…ふぅ…」

「んん…」
 彼は、すっかり昂ぶっているようだ。

「あ、んん…」
 いや、わたしはすっかり、彼の策略にハマってしまったみたい――

 肩を這ってくる、彼の唇と舌先に震え…
 わたしは、カラダの力か抜けてきつつあった。

「はぁ…ふぅぅ……」

 オトコに抱かれるのは…
 別れて以来…
 いや、彼が出て行って以来――

「もぉ、ズルい…」

「あ、いや…」

「最初から、そのつもりだったんでしょう?」

「え、あ…」

「だから、待ち伏せして…」

「い、いや、そ、それは…」

「嘘よ、何年付き合ってきたと思ってんのよ」

「あ、いや…」

「じゃ、やっぱりストーカーじゃん」

「あ、う、そ、それは…」

「バレバレよ……」

「あ、う…」

 閉められないのだから、当然、下ろせない…
 それを、彼は、計算して――

「き、今日だけ…だから……ね……」

「あ、う、うん」
 抱き締めてくる力が、籠る。

「し、仕方ないから…さ…」

 今日の結婚式がイケないんだ――

「う、うん」

 パアッと明るい声音――

「今日だけ…だから…ね……」

 あの幸せそうな二人が悪いんだ――

「うん…」

 軽い返事――

「もぉ…」
 わたしは振り向き…
 自ら、唇を求めていく――

「うん」 

 帰りの街中での、知らないオトコからのナンパよりは、マシか――

「今日だけ…だから……ね………」


 背中には
 見えない嘘が
 あるようで
 下ろせぬチャックに
 あなたを許す
 

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