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愛と犠牲の果て~人妻を堕とす愛人契約~
第106章 裏切りの重奏
時雨崎をお風呂場に閉じ込めると、澪はそのまま洗面所で作業にとりかかった。雄一との電話で「洗面所の片づけをしていた」と言ってしまった手前、その通りの状況を作らなければならない。棚からわざと洗剤のボトルをいくつか取り出して床に置き、いかにも整理整頓の最中だったという風を装う。
それから鏡の前に立ち、自分の姿を見て息を呑んだ。髪はひどく乱れ、衣服の襟元も少し崩れている。男に激しく抱かれていた痕跡を消し去るように、澪は震える手でブラシを手に取り、猛烈な勢いで髪を梳かして身なりを整えた。
その時、玄関に時雨崎の靴が残されたままであることに、はっと気がついた。
「大変、靴が……!」
雄一が見れば一発で男の存在を疑うに違いない。澪は慌てて玄関へ走り、時雨崎のスニーカーをひったくるように持ち上げると、再びお風呂場へと引き返した。
ドアを少しだけ開け、中にいる時雨崎に靴を手渡す。
「これ、持ってて!」
時雨崎は風呂場に入ってきた澪から靴を受け取ると、それを濡れていない床へと静かに置いた。しかし、そのまま澪を帰そうとはしなかった。彼は靴を置いた手で、手早く澪の細い腰を引き寄せ、その豊かな身体を強く抱きしめたのだ。
「っ、ダメ……! 律弥くん、離して!」
澪は声を押し殺したが、時雨崎は聞く耳を持たず、強引に彼女の唇を塞いできた。
隙間なく合わさった唇から、時雨崎の熱い舌が口の中へと容赦なく滑り込んでくる。澪は雄一がいつ帰ってくるか分からない恐怖で心臓が潰れそうになっており、口の中に入ってくる彼の舌に対して、体を硬く硬直させた。あえて抵抗はしなかったが、もちろんそれに応えることもしない。ただ冷たくやり過ごし、隙を見て嫌がって顔を背け、口を離した。
「……お願いだから、浴槽の中に入って、静かにしていて」
澪がそう指示すると、時雨崎は少し不満げにしながらも、靴を抱えたまま大人しくバスタブの中へと身体を沈めた。澪はすぐに浴槽のふたを閉め、彼の姿を完全に覆い隠した。
「いいわね、絶対に音を立てちゃダメよ」
そう念を押し、お風呂場のドアを閉めて鍵をかける。
洗面所に戻り、もう一度鏡を見て最終確認をする。心臓の音がうるさいほどに耳の奥で脈打っていた。床にしゃがみ込み、洗剤のボトルを手に取って片づけのポーズを取る。
その直後、静まり返った室内に、鋭くチャイムの音が鳴り響いた。
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