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2026 人質交換を託された女 (上巻)
第3章 囚われの身
誰も使っていない無記名のロッカー、その中は空のはずだった。扉裏には小さな鏡と、その下にはネクタイ・タオル掛けが付いていた。そこに長さが違う赤い縄が2本、ダラリと垂れ下がる状態で掛けられていた。もう1つ、紺地に白い水玉模様が無数に配置された、豆絞りの手拭いも掛けられていた。それは偶然か、今している銀行のネクタイと同じ柄だった。

壁を背にし、左右をロッカーに挟まれ、正面に男がいる状態では、どこにも逃げ場がなかった。男の意図を理解し、私は肩の力が抜け落ちていく。

「し…縛るだけですよね…?」
男にしっかりと念を押す、その問いを発する声は震えていた。

やはり男からの返事はなかった。ただ指示だけが返ってきた。

「壁を向いて…立ち膝になってくれ…」

納得がいかないながらも、他に選択肢がなかった。また、そうするしかないと分かっていた。自由の身を他人に委ねた代償だと、自らに言い聞かせ、男の指示に「はい…」と短く頷いた。無気力な気持ちが全身に広がっていく。ゆっくりと足の向きを変え、壁に胸を向け、カーペットに両膝をついていく。そのまま更衣室の壁紙に額を預け、目を閉じていく。
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