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2026 人質交換を託された女 (上巻)
第2章 大役
女子トイレの扉がコンコンとノックされた。
「もうすぐ出ます…」と伝えたが、扉はその時すでに開いていた。

私は男の姿を鏡越しに見つめた。ちょうど縄の入った扉をそっと閉めたところだった。

「ちょ…ちょっと…」と言いかけた時、男は狭い空間を通り、私の背後に回っていた。男の手が開けて欲しくない扉に伸びていくのを、鏡越しに見つめていた。

男の手には縄束が2つ握られ、それらをテーブルの上に放り投げていた。

男は私の背後に構え、数秒間、鏡越しに私を見つめた。その目には獲物を見つめるような集中した目だった。

「人質になる準備はできたか…?」
そう尋ねられても、私はただ茫然と立ち尽くし、縄を見つめるだけで、問いには答えなかった。

「その目は…何をされるか…分かっているな…?」
その話し方は取調室の捜査員のようだった。状況証拠が揃い、目の前の人物に認めさせる口調だった。

私は、「ええ…」と短く、聞かれたことだけに答えた。心は言葉には出さず、それ以上のことを話さず縄を見つめ、体は不快な何かに備え、身構え始めていた。

「手を後ろに回してもらおう…」
私はふっと息を漏らし、目を閉じた。

身の危機が間近に、現実として迫り、胸が早鐘を打つ。この男はその台詞を言うために、行動に移したいがために、常に背後か側面に位置し、手ぐすねを引いて待っていたのだ。あの主犯格の男が言っていたように、順番を組み立てていた。
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