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2026 人質交換を託された女 (上巻)
第5章 スマートマウス(2)
男が再び入室してくることも考え、個室の施錠もした。その音が直立不動のまま、ロッカーに閉じ込められた記憶を甦らせる。気が付けば、スカートを下ろす際に手元が震えていた。男に下ろされていく過程が、体に触れる生地の動きで思い出してしまう。太ももまでストッキングを下ろした時、左右の脚についた縄の痕に言葉を失っていた。縄の模様(縄目)が刻印のように、くっきりと真横に伸びていた。シャツを上げ、腰を見ると、ここにも縄の模様が痕として残っていた。

おそらくここにも…という気持ちで、両手で二の腕を摩っていた。きっと…また私は縛られてしまう…そう思い、目を瞑り、大きく溜息をついた。女子行員たちを思うと、自分だけ休憩を許されたことに、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

レバーを回し、トイレの水を流していく。人質となった女子行員の記憶は、そう簡単に水に流せない、と過去の事件の例からも、それは明らかだった。何年も被害者として事件のトラウマを抱え、苦しんでいる人たちがたくさんいた。もっと早く彼女たちを助けてあげないと…という気持ちが、私の中で、あるアイデアを思いつく。

トイレの扉をそっと開け、外に男がいないか、首を扉から出し、辺りを伺った。男はいなかった。男が姿を消した、この隙こそ、千載一遇のチャンスだった。オフィスチェアがポツンと残された無人の通路は、まるで嵐の前の静けさのように不気味だった。
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