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2026 人質交換を託された女 (上巻)
第5章 スマートマウス(2)
椅子はキャスターの音をリズムよく響かせ、狭い通路を進んでいた。

オフィスチェアは女子トイレの前で止まった。予期していなかった展開に、私は顔を背後の男に向けた。

男は私を椅子から立ち上がらせ、「行きたかったんだろう…?」と告げ、背中の縄に手を添えていく。

「いいんですか…?」
男の言葉に裏があるのではないかと、疑っていた。

男は少しずつではあるが、私の体を締め付ける縄の拘束を解いていく。

「いいだろう…君は十分に、その高い能力を見せてくれたからな…」
その予想外の寛容さが、逆に底知れない予感として胸を締め付けてくる。

女子トイレの扉の前で、沈黙の時間が過ぎていく。先輩の言葉が本当であれば、私がここに来てから、もう2時間が経過していた。そんなに縄の拘束を受けていたと思うと、体が楽に動かせる自由に安堵の溜息が漏れていく。

体に這い巡らされた縄は、まるで糸を引き抜いていくように、徐々に体から離れていく。胸の上下の縄が外れ、腰縄が外れ、ようやく後ろに組まされた腕が自由に動くようになる。男は解いた縄をオフィスチェアの背もたれに掛け、長く伸ばしていた。続いて両脚の縄、足首・甲の縄も解かれ、私はようやく自由の身を手に入れた。
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