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夜来香 〜若叔母と甥、禁忌の果て〜(改訂版)
第16章 アトリエ

「これで暗くて視えないということはないでしょう……」

先輩は本当に隠れた部分を描かせるつもりなのか。 解れた緊張がぶり返してくる。
それでも先輩に近づいていく。
いや、吸い寄せられていくと言った方が正しいのかもしれない。


【だめだ…言わなきゃ……】

先輩の前に立ち、このまま押し黙っていると、また先輩に催促させるような台詞を言わせてしまう。
陽翔は思った。
この沈黙を終わらせなければ…失望させてしまう。

先輩はずっと笑みを湛えたまま、まるで脅迫だと思えた。

「あ、あの…足を描かせてください…」

陽翔は胸がチクリと痛むのを感じた。
先輩は小さく溜め息をついた…ように思えた。

「いいですよ……」

先輩が左足のローファーに手をかけ、脱いだ。
またゆっくりも膝が持ち上がっていく。
その様を眺めながら、立っていた陽翔は片膝を床についた。
短いソックスを履いた足裏がベッドに着地していく。
上からのライトはまたしても濃い影を作っていた。 先輩は向けられる視線に気づいているのか、悪戯に微笑みながらソックスも脱いだ。

「これで…いいですか?…ポージングもリクエストしてくれていいんですよ……」

「いえ、大丈夫です……部長も疲れたら言ってください…」

左膝を上に組まれた脚…宙に浮いた先輩の左足をスケッチしていく。






【足…ですか……】

栞はちょっとがっかりした。
唇まで触れさせ、視えないところを描くように誘導したのに…。
でも、彼の視線は明らかに視えない部分を追ってきた。

【いきなり豹変はできないですか……】

今日は家政婦も居なければ、両親に至ってはお盆明け早々仕事で明日まで帰って来ない。

【私には時間があるのですが……】

彼の急な外泊などご両親が許可してくれるのだろうか?
そんなことを想いながら足をデッサンしていく後輩の真剣な眼差しを眺めていた。

【足の次はどこを描くつもりなんですか?……】

栞は陽翔がいかに真剣だろうと、真剣さなら自分の方が上だと確信していた。
芸術家は得てして皆、変態なのだと思う。
栞の伯父が正にそうだった。
それが高じてこの家を出る羽目になったのだ。
このアトリエは伯父の置き土産、栞の両親も娘が絵にのめり込むのを快く思ってなどいない。


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