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夜来香 〜若叔母と甥、禁忌の果て〜(改訂版)
第16章 アトリエ

スケッチブックを滑る…短い、長い線を引く音を細かく鳴らしていく。
先ずは身体のパーツを楕円で区切る。
次いで大まかな輪郭…… 仮の線に具体的な輪郭を重ね込んでいく…。
長い時間線を引いていく。
指先で暈し、消しゴムで不必要となった線を消して…

【はぁ…だめだ…素材がいいのに腕がついていかない…】

ひどく緊張していた。
風景画とは全く違う。
いったいどれほどの時間を費やしているのか、解らなくなっていく。

アトリエにエアコンは効いていた。
先輩は涼しい顔をして遠くを見つめている。
それなのに陽翔は凄く汗をかいていた。
顎を汗が伝う。
トートバッグに入っていたタオルを取り出して汗を拭いて、深く息を吐いた。

「描けたんですか?……」

先輩の言葉がまた時間の感覚を麻痺させる。
かなりの時間を費やしたはずだ。
鋭角だった陽の光は先輩を鈍角に照らしていた。

「いえ、まだです…すみません…」

「大丈夫です…私も集中すると時間を忘れてしまいますから……」

最初から描き直そうとページを捲ったその時…。

「拝見しても構いませんか?……」

【嫌だった…こんなの森宮部長じゃない…】

また誰ですか?…と聞かれてしまうかもしれない。

「やっぱり…難しいですね…僕には…」

自信なさげな声を出した。

身動ぎひとつしなかった先輩が動いた。
ローファーの音が近づいてくる。

「大丈夫です…藤沢くんに私がどう映っているのか…観せてください……」

椅子に座ったまま、スケッチブックを握りしめた。
先輩はページの隙間に指先を入れてくる。
陽翔は手から力を抜き、捲られるページを黙って見つめた。
やっぱり…酷いデキだと思った。

「うーん…確かにこれは観られたくないですね……」

【どっちの意味ですか?…僕が観られたくないって思ってること? …それとも、他人に観せられないってこと? …】

緊張に逃げ出したくなる。



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