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紅蓮の夜に、君をさらう
第1章 炎の宮殿、出会いの夜
私は思わず身を縮めて、部屋の奥へと逃げ戻った。

せめて――せめて、焼かれずに済む場所があれば。

でも、この部屋には窓もない。扉も塞がれた。

「助けて……」

声は、かすれて誰にも届かない。

涙が頬を伝うのを感じた、その時だった――。

「誰だ!」

火の中から、男の声がした。

低く、けれど通る声――まるで炎を切り裂くように。

「助けてくださいっ!」

私は声のする方へ走り出した。

煙にむせながら、視界が赤に染まるなか――その人の姿が見えた。

そして一瞬、時が止まった。

長く流れる黒髪。

くっきりとした眉に、真っ直ぐな瞳。

火の光に照らされた横顔は、まるで彫刻のようだった。
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