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紅蓮の夜に、君をさらう
第1章 炎の宮殿、出会いの夜
「そんなこと……してたの……?」

呆然とする私の横で、部下の一人が肩をすくめた。

「夜叉王、真面目だなあ。あんな奴らまで逃がすなんてさ」

それを聞いて、彼――夜叉王は口の端を上げた。

「それで? その人は?」

部下が私のことを指す。

彼は、ニッと笑って言った。

「香蘭。王族の姫だ」

「ええっ⁉」

周囲が一瞬にして凍りついた。

「お、おいおい……王族って、あの……? 本物かよ⁉」

「取り戻しに来たら、どうするんです⁉」

誰かが慌てて声を上げる。

その場に漂う空気が、一気に緊迫した。

けれど彼――夜叉王は、まるで面倒事に慣れているように、肩を軽く回して笑った。
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